電話
ふといたずら心で、電話を取った。
自分の家から自分の家へかけようというのだ。
****-****……
ツー、ツー、ツー。話し中だ。
こうなるのが当然だった。照れ笑いを浮かべて受話器を下ろそうとしたとき、
ガチャッと受話器が上げられる音がして、
「もしもし?」
声がした。
ギョッとして、あわてて受話器を下ろした。
きっと、間違ってかけたのだ。
そのとき、電話のベルが鳴った。
恐る恐る受話器を取って、
「もしもし?」
そう言うと、何も言わずに切れた。
影
夜、自分の「影」を見ると、近いうちに命を落とす……
深夜の街、暗い街で、自分と同じ姿を見たとき、その話を思い出した。
全く同じだ。背筋が凍った。
だが、じっと見ているうちに気がついた。
こっちが右手を振れば、向こうは左手を振る。笑えば、笑う。
わかった。ショウ・ウインドウに自分が映っていたのだ。ばかばかしい。
アハハハハと笑って、それを確認すべくショウ・ウインドウに近づいたとき、
足元の、ふたの開いた深いマンホールに落ちた。
ショウ・ウインドウには、まだ影が映っている……
あごひも
知り合いの女子高校生がいる。
通学のときもそれ以外の日常でも、いつもミニバイクで走り回っている。
ヘルメットは頭の上半分をカバーする、いわゆるドカヘルタイプを愛用しているが、
髪型が崩れるのを嫌がってか、あごひもを長く伸ばし、うなじのあたりにぶら下げている。
いつも注意するのだが、聞く耳を持たない。
「お前なー、ちゃんとかぶらんと、こけたときに何かに引っかかって、首がしまっちまうぞ」
「そんなこと、ならへんもーん」
確かに、そんなことにはならなかった。
先日、渋滞する車を避けてセンターラインすれすれを走っていたとき、
対向車線を走るワンボックス車とすれ違った。
ヘルメットがワンボックス車のミラーに引っかかり、一瞬で首が切断された。
首を失った彼女が乗ったまま、ミニバイクは10メートルほど走行し、その後転倒した。