単品怪談

あなたの場合


 あなたは小さな商事会社に勤めるOLだ。
 三十半ばで独身、貧相な体型で、女性的魅力のかけらもない。仕事はできず、率直に言えば無能。「使えないババア」というのが、あなた以外の社員たちの一致した意見だ。
 上司もすでにさじを投げている。叱責を受けたあなたは決してミスを認めず、ヒステリックにわめき散らすからだ。
 ──だが、そんなあなたも、最近はご機嫌だ。
 数日前に、いつもあなたを叱責していた課長が死んだからだ。
 正確に言うなら、帰宅途中に何者かに刃物でめった刺しにされて殺されたのだ。

 やったー。いい気味。

 あなたは思う。そして、思い出す。
 以前にも同じようなことがあった。
 新人のくせに、自分に当てつけるように恋人の話ばかりしていた女子社員。
 彼女も、恋人と二人で自宅にいたところを刃物でめった刺しされ、殺されているのが発見された。
 あなたは警察に事情聴取されたが、もちろんあなたにはアリバイがある。事件があった時刻、あなたは自分が住むアパートで、大声でわめき散らしながら、布団に包丁を突き刺していたのだ。これは隣人が証言している。

 あれっ。おやっ。

 あなたは思う。

 ひょっとして、あたしが殺したのかな?
 あのときの、あの包丁の手応えは、布団とは違っていたような気がする。
 でもあたしは確かに自分の家にいたし。
 ドレッサーをのぞくと、自分の顔が映る。
 鏡に映った自分はニタリと笑い、鏡の向こうから包丁を突き出してきて、あなたはその包丁に喉を切り裂かれる。



 翌日、包丁を握りしめて、ドレッサーの前で血まみれになって絶命しているあなたが発見される。
 警察は現場の状況から自殺と判断し、捜査は終了する。







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