隣の部屋に住んでいた女が惨殺された。臨月の腹を引き裂かれ、中にいたであろう胎児が消え失せていた。
暗い女だった。三十ぐらいでやせぎすの、魅力のない女だった。もちろん独身で、六畳一間の部屋が並ぶこの安アパートに、一人暮らししていた。どうやって生計を立てていたのか、ずっとアパートの部屋に閉じこもり、姿を見ることはまれだった。
警察にあれこれとしつこく訊かれた。
──何か見なかったか。
──つきあっていた男を見なかったか。
だが、自分は女が誰とつきあっているか知らなかったし、そもそも、このアパートに女を訪ねてきた人間など、誰一人いなかった。
しまいには、刑事たちは自分に疑いの目を向け始めた。
誰も女を訪ねてこなかったが、しかし、深夜に隣の部屋からあえぎ声が聞こえてきたことはある。最初は女が自らを慰めているのかと思ったが、あえぎ声の中に獣のうなり声が混じっていたような気もした。
刑事と一緒に女の部屋に入ったときに見たのは、おびただしい数の魔術やオカルト関連の書籍だった。
刑事たちはその書籍のタイトルも知らず、ただのオカルト好きな女の趣味と思ったようだが、明らかにその域を超えていた。
そもそも──と、自分はあることに考えが及ぶにいたって、身を震わせる。
疑われたことが不愉快で刑事たちには言わなかったが、あの女は先月までは、腹がふくらんでなどいなかった。孕んでいる兆候など、これっぽっちもなかったのだ。
腹の中の胎児は、本当に持ち去られたのだろうか。もしかして、自ら腹を食い破って出てきたのではないか。
──今自分は、アパート内に漂う悪臭と、ときおりどこかから聞こえるうなり声が、気になっている。