単品怪談

あやかし心中


 夏の盛り、大坂、三津寺丁に住む弥吉という男が、最近げっそりとやつれてただ事ではないという。夜更けに長屋を出て行き、明け方近くになってようやく戻ってくる。
 気になった隣人の喜八があとを追うと、道頓堀の相合橋たもとに若い女が待っていた。惣嫁(そうか。街娼)の類かと見ていると、喜八の目の前で二人の姿が消えた。肝をつぶした喜八は家主の清兵衛に相談した。
 仔細を聞くために清兵衛が弥吉の家を訪ねると、なるほど顔色が悪い。

「弥吉っつぁん、言いにくいことなんやが、あんたが相合橋で逢うてるおなごしな。ありゃあ、たちのようないもんやで」

 驚いたことに、弥吉は若い女がもののけであると承知していた。





現在の相合橋

 先月、生国魂神社へ御参拝した帰り、相合橋まで来たところで声をかけられた。女は、自分はこの堀に棲むものであると明かした上で、弥吉の体調がかんばしくないのは、肝の臓の具合が悪いためだと告げた。自分にはそれを治すことはできないが、せめて何かお役に立ちたい、と言う。それから、夜毎の逢瀬が始まった。

「清兵衛はん。わしみたいな金も学もない醜男に、あのおなごしは、ほんまに優しゅうしてくれよりました。あのおなごしがもののけやとかこの世のもんやないとか、そんなことはどうでもええんです」

 四天王寺で魔除けの御札を授かってきてはどうかと清兵衛は諭したが、弥吉は耳を貸さなかった。
 数日後、相合橋の親柱に身をもたせかけて冷たくなっている弥吉が見つかった。弥吉の亡骸のそばで、一匹の蝦蟇が干からびて死んでいた。それに気づいた人々は、「目の前の堀に飛び込めば死なんで済んだやろうに」と首をひねり、あるいは嗤った。


 蝦蟇を哀れんだ清兵衛は、後日、相合橋のそばに小さな塚を立てた。


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