単品怪談

落ちていたエクステ


 ある日の夕刻。所用で出かけた帰り、ワンブロック先の駅まで歩くことにした。
 歩道をぶらぶらと歩いていると、前方に奇妙な物が落ちているのに気づいた。
 そばに立って見下ろして、エクステだと思った。量は多くない。束ねると鉛筆一本分ぐらいで、長さは30センチ強といったところか。






 何かの拍子に留め具が外れたのだろうと、それをそのままにして、数メートルほど歩いたところで、え、と足元を見つめた。
 さっき見たのと同じようなエクステが落ちている。
 思わず後ろを振り返る。それらしき物がまだあるのがわかる。さっきのエクステが風に飛ばされてきたわけではないようだ。
 珍しいこともあるものだと思いつつ、歩いてゆく。
 いくらも歩かないうちに、同じようなエクステが落ちているのに気づいた。おかしな人物と思われそうで、立ち止まらずにエクステを横目で見ながら歩を進めた。

 ──また落ちていた。しかも増えている。

 茶色の、束ねると鉛筆一本分ぐらいの量の、長さ30センチあまりの、エクステ。ただ、これまでと異なって、束が二つだった。
 さらに数メートル進むと、今度は三つほどの束が落ちていた。 もう地面から目がはなせなくなり、落とし物でも捜すように、ずっと下を見て歩き続けた。 数メートルごとに、必ずエクステは落ちていた。目に付くたびに束の数は増えていき、ついにはとっさには数えられないほどの量になった。
 あまりのことに、盛り上がったエクステを呆然と見つめていると、その束の上に、はらりと新たなエクステが落ちてきた。
 ぎょっとして顔を上げると、目の前に女が立っていて、女は無表情で、頭髪をむしり取っては足元にまき散らしていた。



 あたりには、誰もいない。


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