単品怪談

布団の上に……


 ある夏の夜。

 布団に潜り込んで少しした頃、右腕に布団の上から軽い圧力を感じた。
 室内でペットを飼っている人なら、よくわかると思う。
 布団の上をペットが歩いているときに感じる、あの圧力だ。

 だが……我が家では、犬も猫も飼ってはいない。

 圧力は、右腕の先から肩の方へと、1歩1歩、猫か犬が歩いているとしか思えないような感触で、進む。

 薄気味が悪い。

 ……金縛りではない。
 金縛りは何度も経験しているので、はっきりわかる。
 なにより、身体が動く。
 指も動くし、起きあがろうと思えば、できるはずだ。
 動かせるが……動かさないのだ。

 本当に「何か」がいたら、怖いから。

 右腕には、依然として布団の上からの圧力を感じる。
 ……どうする?

 寝返りをよそおい、思い切って身体を横に向けた。

 右腕には、何も手応えを感じなかった。
 しばらくしてから起きあがって、部屋の電気を点けた。
 部屋の中を見回す。




 ……部屋の中には、もちろん何もいなかった。


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