単品怪談

花愛でる人


 まあこれは駐在さん、わざわざ御足労いただいて恐縮です。なにしろわたくし、ご覧の有様なもので。いえ、身体はいたって息災ですのよ。ただ起き上がれないだけですの。
 なんですか、主人と娘のことについてお尋ねになりたいとか。実は今日おいでいただいたのも、そのことに関係がございますの。
 そこの窓から、庭をご覧いただけます? ひときわお花がたくさん咲いている所がございますでしょう? あそこの下に、主人と娘が埋まっていますの。
 まあ。そんな怖い顔なさらないでくださいな。主人も娘も、ちゃんと生きておりますわ。
 以前、主人や娘とこんなことを話しましたの。──人間が花になれないものか、と。
 花になれば、枯れたあとも種が遠くまで行って芽吹き、そこでまた咲くことができますもの。素晴らしいでしょう?
 そこで、庭に穴を三つ掘りまして、そのうち二つに主人と娘が入りましたの。その上に種をまきましてね。主人がどこからか見つけてまいりました種で、とっても珍しい品種とか。人の身体に根付くそうなんですの。
 わたくしはこまごまとした雑用を済ませてから穴に入るつもりでございましたが、ところがまあ、わたくしったら粗忽者でございますから、花の種が服に付いていたのでございましょうね。たった一晩ベッドに横になっていただけで、種が根を出しまして。
 これ、この通り。
 根がわたくしの身体からベッドの下まで伸びてしまいまして、動けなくなってしまいましたの。この有様ですから、主人と娘の横に入れませんの。ですから、駐在さんに庭まで運んでいただこうと。
 ──あ、駐在さん、どこへ行かれるのです。
 どうぞわたくしを庭の穴に。
 後生ですから。
 駐在さん。







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