単品怪談

日々の暮らし







 行動範囲が狭い専業主婦の私でも、毎日暮らしていると、それなりに街に思わぬ変化があって、「あらっ」と思うことがしばしばです。
 買い物の道すがら、更地になっているところをたまに見かけます。確かついこの間までお店があったはずだけど? と思うのですが、ではそのお店がなんの店だったかということが思い出せません。
 よくあることです。

 よくあると言えば、交差点で信号待ちをしていてふと足元を見ると、花束やお菓子などが置かれているのに気づいたりします。
 ああ、誰かここで亡くなったのだろうかと心が痛みます。
 小さな子だったのだろうか、御老人だったのだろうか、と。






 交通事故と言えば、車の事故を見たこともあります。
 正確に言うと、事故のあと、です。
 車道脇に、前の部分がぐしゃぐしゃになった車が置かれていました。
 乗っている人はいませんでした。
 察するに、乗っていた人はすでに救急車で運ばれ、車はこれから事故検分か何かのためにまだそこに置かれていたのでしょう。
 横を通るときにちらっと中を見てみましたが、運転席も助手席もぐちゃぐちゃで、しかも血まみれでした。
 これでは、助からなかっただろうな……と思ったものです。

 買い物でも、ちょっと足を伸ばすときもあります。
 そんなときの「足」は、もっぱら電車です。
 駅のホームで電車の到着を待っていると、こんなアナウンスが流れるときがあります。

「ただいま、**駅におきまして(2つほど手前の駅です)、人身事故が発生いたしました。お急ぎのところまことに申しわけありませんが、しばらくお待ちくださるようお願いいたします」

 電車を待っている人が一様に、「あ~あ」という顔になります。
 正直なところ、私もそうです。
 多少の例外はあるでしょうが、「人身事故」と言えば、たいていの場合は飛び込み自殺です。

「ちっ、何もこんな人の多い時間に飛び込まなくてもいいだろが」

 横に立っていた、サラリーマンらしい中年男性が舌打ちしながら言いました。
 ずいぶんな言い方ではありますが、急いでいる方にとっては、実感でしょう。

 買い物の帰り道、あるマンションの前を通りがかると、水道の水を流しながら、デッキブラシで玄関を掃除しているのを見かけました。
 年末でもないのにやけに大げさな掃除だなと思ってよく見ると、ブラシで流されている水が真っ赤で、それでようやく、ここで何があったかわかりました。
 危ないところでした。
 もう少し早く通りがかっていたら、すごくいやなものを見たに違いありません。
 思わずマンションを見上げて、どのあたりから飛び降りたのだろうかと考えてしまいました。






 買い物を終えて、帰宅します。
 居間に入ると今朝がた夫婦ゲンカのはてについかっとなって殴り殺した夫がそのままになっていて、さてどうしたものかと首をひねります。

 とりあえずノコギリを持ってきて、解体にかかります。




本作は以下のリンク先で朗読が聴けます
https://www.youtube.com/watch?v=Slkeix4NQHc
朗読:ビストロ怪談倶楽部様

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