単品怪談

ホテルにて2題


その1.わびるホテルマン

 ある地方都市のシティホテルに泊まった。
 チェックインのために宿泊カードに記入していると、フロントのホテルマンが、

「現在増築工事中のため、多少工事の音が聞こえるかも知れません。
注意はしておりますが、ご了承下さいませ」

 と、頭を下げた。
 真横でガンガン工事するわけでもないだろうから、軽くうなずいた。

「別にいいですよ。真夜中に、部屋の中や廊下なんかで、どこからともなく赤ん坊とか女の泣き声が聞こえてくるのは、勘弁だけど」

 そんな冗談を言ってみる。
 カードを記入し終えて顔を上げると、ホテルマンの顔色が変わっていた。

「ご、ごぞんじだったのですか……!」


え……?



その2.絵の裏の御札


 怪奇体験を紹介するバラエティ番組などで、
 タレントがしたり顔でこんな話を紹介することがある。

「ホテルに泊まったりするじゃない。したらさ、たいてい絵が飾ってたりするでしょ。
あの絵がくせ者なんだよね。
絵の裏にね、御札が貼ってあったりするんだよね。(観客から「ひゃあ~~~」という声)
そういう部屋って、当然あやしいわけ。
絵の裏とは限らないけどね。
ベッドの下、ベッドと壁の間、テーブルの裏側、とかね」

 ちょっと年季の入ったホラーマニアなら、
「今さらこんなことを秘密めかして言うんじゃねえよ」
 などと思ってしまうが、それなりに怖がる人がいるのを見ると、やはりいまだ有効な言い伝えなのかも知れない。

 そこで、ちょっとしたいたずらを思いついた。

 何度か利用しているホテルに行き、部屋の中にある絵の裏に、適当な厄よけの御札を貼ってくるのだ。
 どこかで話題になればよし、ならなくても、勘違いして怖がる客が何人かいるかも知れない。
 何もなかったとしても、厄よけの御札だけの出費だ。

 さっそくチェックイン。
 部屋に入って……絵があった。
 どうということのない風景画だ。
 裏返し、持参した御札を貼り付ける。

ぷぷっ。(*^m^*)

 1ヶ月ほど過ぎた頃、再びそのホテルを予約した。
 前回と同じ部屋を指定すると、
 予約係が、「は?」と、不審気な声を発した。
 そりゃそうだろう。普通、部屋番号を指定して予約する客は少ない。
 それとも……いたずらの効果が出ているのだろうか?

ぷぷっ。(*^m^*)

 宿泊当日。
 キーを受け取り、部屋へ向かう。
 ホテルマンたちが妙な目つきでこちらを見ていたが、気のせいか?

 部屋の中は、前に泊まったときと、何も変わりはなかった。
 絵も、同じ物が掛かったままだ。
 裏返してみる。
 御札も、そのままだった。

 結局、何もなかったわけか。
 思った通りの結果とはいえ、いささか拍子抜けした。
 このままにしておいても仕方ないので、御札をはがす。
 くしゃくしゃに丸めて、くずかごに放り込んだ。

ガサ

 すぐ背後で、何か物音がした。
 誰かの気配。いや……何かの。

はあっ はあっ はあっ

 首筋に、息がかかる。

 肩に、手が置かれた。


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