黒神由貴シリーズ

邪眼の玻璃面 5


15.かかいムン

「キャミ!」

 思わず私は叫んでいた。
 その私の腕を、黒神由貴がそっとつかんで、小さな声で言った。

「……真理子。あれはキャミじゃない」

 私は黒神由貴の顔をまじまじと見つめた。
 いったい、何を言ってるんだ、この子は。
 血まみれになっているけど、どう見たってキャミじゃないか。

「あいかわらずだな、五島。刃物振り回すしか能のないチンピラ引き連れて。そんなにお山の大将ごっこが楽しいか」

 キャミが口を開いた。
 私は思わずキャミの顔を見直した。
 声のトーンは間違いなくキャミであったが、物言いが、まるで違っていた。
 キャミは、右手にぶら下げた首を放り投げた。
 放物線を描いて、首は鈍い音を立てて私たちの目の前に落ちた。床に血を塗りたくりながら、1メートルほど転がった。
 首は、スーツ野郎だった。

「お前が千波の妹の美咲か。アネキの仇討ちたぁ、泣かせるよなあ」

 中年男──五島という名らしい──は言いながら、スーツの内側に右手を入れた。
 スーツから手を出すと、その手には拳銃が握られていた。左手で拳銃の上半分をスライドさせ、そのまま、銃口をキャミに向けた。

「ま、お涙ちょうだい浪花節もここまでだ。鉛玉食らって、千波のところに行くんだな」

「下っぱもバカだが、お前もいいかげん頭に花の咲いたバカだな、五島」

 せせら笑うような表情で、キャミは言った。

「なんだとぅ」

「いいかげんに気づけ。美咲はあたしの妹だ。あたしは、お前らに殺された、千波だよ」

「な……!」

 五島は一瞬絶句したが、すぐに、ふてぶてしい笑いを浮かべ、言った。

「ツヨシか安田か、どっちがやったか知らねえが、腹に刺さった匕首(あいくち)は、深手だぜ。お前も長くねえだろう」

「これか?」

 キャミはお腹に刺さった刃物を指さした。
 せせら笑いの表情が、さらに大きくなった。
 キャミは刃物の柄を握ると、無造作に抜いた。

「こんなものが効くか。笑わせるな」

 キャミはあざ笑った。
 刃物を抜いても、一滴の血も流れなかった。服も、抜いたあとの細い破れが残っただけだ。
 キャミはお腹から抜いた刃物を放り投げると、両手で顔を隠した。
 少しして両手を下ろすと、どこから出てきたのか、キャミの顔上半分が仮面で隠れていた。
 ビール瓶のような色の、ガラスっぽい光沢の、仮面。

「かかいムン……!」

 黒神由貴が小声で言った。私は「えっ」と聞き返したが、黒神由貴はそれっきり何も言わなかった。私に言ったのではなく、思わず口をついて出た言葉だったようだ。

「お前たちも死んでもらおうか。なるべく苦しく殺してやる」

 言いながら、キャミがこちらに近づいてきた。

「おおっと。そこでストップだ」

 五島が立ち上がり、私の背後に回った。同時に、私の頭の横に、ごつごつと硬いものが当てられた。

「なんのためにこのお嬢ちゃんたちを使って呼び出したと思ってんだ。お嬢ちゃんたちの命が惜しかったら、悪あがきはやめて冥土に行きやがれ」

「まったく、どこまでうすらバカなんだ、お前は」

 もはや明確に嘲笑し、キャミは言った。

「あたしがここに来たのは、ここに来ればお前らがいて、お前らを殺すことができるからだ。その子たちを助けるためじゃない。ついでに言えば、その子たちが死んでも、あたしは痛くもかゆくもない。殺りたきゃ勝手に殺れ。そのあとで、あたしはお前ら二人をなぶり殺しにする」

 言いながら、キャミはさらに私たちに近づいた。
 私の頭の横に当てられた硬いものが、小刻みに震えた。
 五島が動揺しているのがわかった。

「そこで止まれえっ!」

 ボディガードが五島を守るように前に回り、銃を抜いてキャミに向けた。

「ガンであたしを止められるなら、止めてみろ」

 言いながらキャミは、足下に転がっていた、タバコのパッケージぐらいの大きさの、機械の部品らしき金属の固まりを拾い上げた。
 手のひらに載せて、数回、上に放り投げる。
 手の揺れ方からして、けっこうな重さなのがわかった。
 再び、歩き出す。

「栗原、撃て」

 五島が言った。
 ほぼ同時に、作業場内に轟音が響いた。いつか住宅街で聞いた、警察官の拳銃音との比ではない。

「キャミ!」

 頭に拳銃を突きつけられていることを忘れ、私は叫んだ。
 キャミの身体が、一瞬、揺らいだ。胸の真ん中に、虫食いのような穴が開いていた。
 だが、噴き出すはずの血は一滴も出ず、キャミは平気で立っていた。
 ボディガードは目を見開いて、絶句していた。

「ぼけっとするなっ! 撃ち殺せっ!」

 五島が叫んだ。
 我に返ったボディガードは、拳銃を連射した。
 轟音が響くたびにキャミの身体が揺れ、服に穴が空いた。
 だが、それでもなお、キャミは平然とその場に立っていた。
 やがて、ガシャッと音を立てて、拳銃の上部が後ろに下がったまま止まった。

「チェックメイト。弾切れだ」

 キャミは笑い、手に持っていた部品を、軽いスイングで投げた。

「えぶっ」

 ボディガードが、くぐもった声を上げ、身体を硬直させた。
 ゆっくりと、仰向けに倒れる。
 ボディガードの顔面に、部品がめり込んでいた。手足がぴくぴくと痙攣する。

「てめ、てめえっ!」

 五島が叫んだが、その声は震えていた。もはや私の頭に拳銃を突きつけている状況ではなかった。
 五島は私から離れ、拳銃をキャミに向けながら、あとずさった。
 そのスキをついて、私は黒神由貴の手を引いて、椅子から転げ落ちるようにして、その場を離れた。
 向かい合っている五島とキャミから、数メートルは間が空いた。

「さっさとくたばりやがれえっ! 死にぞこないがっ!」

 五島は拳銃を連射した。もちろん、キャミには効かない。

「お前もあの議員も同じだ。女を、切れ目を入れたコンニャクと思ってやがる。クソ野郎が」

 キャミは言って、右手を大きく振った。
 金属音を立てて、私の目の前に、拳銃を構えたままの五島の右手、ひじから先が転がってきた。

「っつ、がああああ!」

 切断面から血を噴出させながら、五島が絶叫する。

「地獄へ行け。クソ野郎」

 キャミが手を伸ばし、指を広げて五島の顔をわしづかみにした。
 5本の指が、五島の顔にめり込んでゆく。
 五島の身体がぶるぶると震えはじめた。

 「喜屋武さん、もうやめなさい!」

 よく通る澄んだ声が、作業場内に響いた。
 入り口に、神代先生が立っていた。手に、独鈷杵を持っている。
 続いて、えらく長身の男の人も入ってきた。その人もまた、独鈷杵を手にしていた。


16.なんくるないさー

 キャミが、五島の顔をわしづかみにした状態のまま、ドアに顔を向けた。

「……ほう。高野か」

 ニヤリと凄惨な笑いを浮かべると、キャミは五島の顔面を握りつぶした。
 たっぷりと果汁を含んだ果実がつぶれるように、どろどろとした血が四方へ飛び散った。
 頭部が半分ほどの大きさになった五島が、くたくたとその場に倒れ込んだ。

「次はお前たちだ」

 キャミが、床に座り込んでいる私たちに顔を向けた。

「喜屋武さん! ……いや、喜屋武千波! あんたが『かかいムン』だというのはわかってる! もうやめろ! そいつを殺して、目的は果たしただろう!」

 神代先生が叫んだ。

「まだ残っている」

「あんたの残りのターゲットはわかってる! 民民党の議員だろう! そっちは、私が責任もって地獄へ叩き込んでやるから、もうやめろ!」

 神代先生が叫んだ。

「高野ふぜいに何ができる。──そっちの娘」

 キャミが黒神由貴に顔を向けた。

「お前は陰陽道か。紙切れに等しい呪符程度であたしをどうにかできると思うなよ」

 キャミは続けた。

「あのくそ議員とは、五島の指示で何度か寝た。まともに勃たなかったがな。そのときに、あの議員がヘロイン漬けになっているのがわかったんだ。面倒なことになる前に、口封じに動きやがった。
こちらも、うすうすわかっていたからな。玻璃面を依代にして、美咲に送っておいた。玻璃面を見れば、美咲なら理解できるとわかっていた」

「だから、あとは私にまかせろ!」

「わかったような口をきくな。貴様たちに何がわかる。あたしにとっては、こいつらも貴様たちも、所詮『ヤマトンチュー』だ。信用できるか」

 再び、キャミが私を見た。仮面の中の目が、黒目部分まで真っ赤だった。
 来る。
 私は目の前に転がっている右腕から、拳銃をむしり取った。
 おぼつかない手つきで、キャミに銃口を向ける。

「こ、来ないで! 来たら撃つわよ!」

 私が言うと、キャミは笑った。

「さっき見ただろう? あたしにガンは効かない。──それに、あんたにガンが撃てるのか?」

「ちゅ、中学のとき、グァムで撃ったことあるもん!」

 私は精一杯の虚勢を張った。事実ではあったが、もちろん人に銃を向けたことなどなく、ましてや人を撃ったこともない。
 拳銃を持つ手が、ぶるぶると震える。
 キャミが、手を伸ばせば届く距離にまで近づいた。
 キャミの手が私に届いて、私の頭か首をつかんだら、それで、私は死ぬ。
 
「キャミ! 『中』にいるんでしょう? お願い、出てきて!」

 黒神由貴が叫んだ。

「あなたが完全に『かかいムン』になったなんて、信じられない! だって真理子に送ったメールで、『絶対に助ける』って言ってくれたじゃない! まだ、キャミなんでしょ?」

「あたしにも電話くれたわよね、喜屋武さん」

 神代先生も口を添えた。

「『銃を持ったヤツがいるから注意しろ』って。皆殺しにするつもりだったら、そんな言葉は出ないわよね。あれは、喜屋武さんが言ったんでしょ?」

 私の顔寸前まで近づいていたキャミの手が止まった。

「……ねーねー(沖縄弁で姉)。もういいでしょう? やめようよ」

 キャミがぽつりと言った。
 明らかに、さっきまでの話し方とは違っていた。私や黒神由貴がなじんでいる、クラスでいつも聞いていた声──本来のキャミの声だった。

「バカなことを言うな!」

 同じ口から、さっきのような声が出た。

「怨みを忘れたのか! 怨みを晴らしたくないのか!」

「ねーねー。私は、ずっと星龍学園にいたかったのよ。榊さんや黒神さんと一緒に、普通の生徒でいたかったのよ」

 本来のキャミのときだけ、キャミは寂しげな表情になった。
 奇妙な一人芝居を見ている気分だった。

「ねーねー。私はずっと普通に生きていたかったのに、私を『かかいムン』にしたのは、ねーねーなのよ」

 キャミは私の顔近くまで伸ばしていた手を少し戻し、拳銃を握っている私の手を包み込んだ。

「キャミ……もう、学園に戻ろうよ。ね?」

 私は言ったが、キャミは力なく首を横に振った。

「さっき、あのやくざたちが撃ったのを見たでしょう? 私、死なないの。死ねない身体になっちゃったの。『かかいムン』になったから」

 キャミの意図をつかみかねて、いや、心のどこかではうすうすわかっていたのかも知れないが、だからこそ、私は何も言えなかった。

「でもね。たった一つだけ、『かかいムン』を滅ぼす方法があるの」

 キャミはそう言って、包み込んだ私の手を持ち上げ、拳銃の銃口を仮面に当てた。拳銃の引き金部分に親指を差し込んで、引き金にかけている私の人差し指を上から押さえる。

「これなら、外しっこないわよね」

「ちょっ! やめてキャミ! バカなことしないで!」

「キャミ、やめてっ!」

「喜屋武さん! やめなさい!」

「やめろっ! 美咲っ!」

 私と黒神由貴と神代先生が叫び、同時にキャミの口からもキャミのお姉さんの叫び声が出た。

「なんくるないさー」

 キャミは言った。その目はさっきまでのような真っ赤な目ではなく、ちょっと寂しげではあるが、確かに私たちのクラスメートである喜屋武美咲の目だった。

 私の人差し指に力がかかった。
 手の中の拳銃が轟音を上げた。
 キャミが着けていた仮面が砕け散った。
 キャミが顔をのけぞらせた。
 顔をのけぞらせたまま、キャミは身体を後ろにそらし、倒れていった。
 信じられないほどゆっくりとした速度で、キャミは床に倒れた。
 床にぶつかったキャミの身体が、砕けた。
 まるでガラス製の人形が砕けるように、キャミはきらきらと輝く砕片となって、粉々になった。
 人間の形をしたキャミは、完全に消滅した。













「キャミを殺した……」

 私の口から、そんな言葉が出た。

「私、キャミを殺した……」


いやああああああ!



 私は握っていた拳銃を放り投げ、絶叫した。
 その場にへたり込み、顔を上に向けて、狂ったように絶叫した。
 いや、確かに私は狂っていた。
 壊れていた。
 自分の手でクラスメートを殺した事実を、理性が拒否していた。
 涙がとめどなくあふれる。
 私は床に突っ伏した。
 床に頭がぶつかり、ごつっと鈍い音を立てた。
 まったく痛みを感じなかった。

「真理子! しっかりして!」

 黒神由貴が、私の身体を抱きしめて叫んだ。

「……黒神さん。榊さんを、楽にしてあげられる?」

 神代先生の声が聞こえ、私の身体を抱く黒神由貴の手がびくっとしたのがわかった。
 私は床に突っ伏した状態のままなので、神代先生がどんな顔をしてそう言ったのか、それを聞いた黒神由貴がどんな顔をしたのか、わからなかった。

「できます。できますけど……」

「やってあげて。榊さんには、心の負担が大きすぎたのよ」

「……はい。──真理子。身体を起こして」

 黒神由貴が私の肩を抱き、身体を起こした。
 黒神由貴は私の顔を両手ではさみ、まっすぐ私を見つめた。
 黒神由貴は、目にいっぱい涙をためていた。

「……ごめんね」

 なぜか、黒神由貴は私にわびた。

「怖い思いさせてごめんね。つらい思いさせてごめんね。すぐに、みんな忘れさせてあげるから」

 いやなことをすべて忘れさせる。
 黒神由貴にはそれができるのだ。
 なぜか、それがわかった。

 ……それはだめだ。
 絶対にだめだ。

「……くろかみ」

 私はようやく話せるようになった。

「真理子! 私がわかる? よかった!」

 私の顔をはさむ手に力がこもった。

「みんな忘れるって……それをしたら、キャミのことも忘れてしまうんでしょ?」

「え……」

 黒神由貴が、当惑したような顔になった。

「私、キャミのことを忘れたくないのよ。だって、忘れたら可哀想じゃない。……だからお願い。私がんばってすぐに立ち直るから、今日のことは覚えていさせて」

「……榊さん、つらい記憶になるのよ。いいの?」

 いつの間にかそばまで来ていた神代先生が言った。

「かまいません。そうじゃないと、キャミが生きていたことを、誰も知らないことになっちゃう」

 神代先生は私と黒神由貴のそばにしゃがみ、私の肩を抱いた。

「……榊さん、あなた、強い子になったわね。──幻丞」

 神代先生は、近くに立つ男性に声をかけた。

「あとの始末は私がやっておきます。お嬢は黒神さんたちを連れて、私の車で先に出てください。私は新妙会の連中の車で戻ります」

「わかった。よろしく頼むわ。──榊さん、立てる?」

 私は神代先生と黒神由貴に身体を支えられて、作業場を出た。


エピローグ1

 学校の帰りに体調が悪くなったという理由を付けて、神代先生が私の両親に説明してくれた。
 私自身が言っていたら絶対に信用されなかっただろうが、神代先生の言葉には説得力があった。
 近所の病院に1日だけ入院することにして、何ごともなかったかのように、私の生活は元通りの平穏なものになった。

 病院から戻って、部屋着に着替えると、母親がアイスティーを入れてくれた。
 テーブルにあったドーナツをつまみながら、アイスティーを飲む。
 テレビのスイッチを入れると、ちょうどお昼のニュースの時間だった。
 始まるなり、ニュースは何やら騒然とした雰囲気を伝えていた。
 よくわからないが、例によって政治家の不祥事らしい。

「これ、昨日の夜、大騒ぎだったのよ」

 リビングのテーブルで私の向かいに座り、同じようにドーナツをつまみながら、母親が言った。

「何かあったの?」

「あんたが病院にいる間にね、民民党の議員が、審議中にわけのわからないことを言い出したのよ」

「わけのわからないことって?」

「もう何回もテレビでやってるから、覚えちゃった。『私は北のパーマ頭の首領様とはマブダチだ』とか『私なら念力でテロを阻止できる』とか『UFOが来襲したときに備えて地球防衛軍を創設すべきだ』とか、とにかくもう、いきなりわけのわからないことを言い出したのよ。それで、まわりの議員とか警備員とかがあわてて止めに入って。……なんかね、その議員さん、麻薬中毒だったんですってよ。その禁断症状が突然出たんだって。びっくりしちゃった」

「ふうん」

 私は生返事をして、テレビの中の大騒ぎを見つめた。

「ん?」

 議員たちや警備員に押さえつけられても、なおもわけのわからないことをしゃべり続ける民民党議員から少し離れた場所で、すらりとした背格好の女性が議場を出ていくのがちらりと映った。
 ビジネスライクな地味なスーツ姿で、地味なデザインの眼鏡をかけているが、今のはもしかして神代先生ではないか?
 確信はない。
 再度確認しようにも、もう画面から消えていた。

「なんかもう、政界は上を下への大騒ぎよ。麻薬をやっていた議員が、かなりいたんですってよ」

 ニュースは引き続き、政界麻薬汚染の元凶となった麻薬密売組織として、広域暴力団下部組織、新妙会の徹底捜索にかかったと伝えていた。これによって、新妙会はほぼ壊滅するだろうとも。


エピローグ2

 星龍学園の朝が始まる。
 始業時間が近づき、クラスのみんなはざわざわとしながら、それぞれの席に着く。

「あれ」

 私の左横に座る永井紗由美(ながいさゆみ)が、自分の席の左横──つまり私から見ると紗由美の席をはさんだ向こう側──を見て声を上げた。

「ねえ真理子。ここの席って、空いてたっけ? 誰もいなかった?」

 紗由美は、空いた席を見ながら、不思議そうな顔をした。

「空いてるよ。ずっと。なんで?」

 なるべくさりげなく聞こえるように努力して、私は言った。

「そっかー」

 そう言いつつ、紗由美は首をかしげた。

「何を勘違いしたのかな、なんか、ついこの間まで、ここに誰かいたような気がしたんだけどな」

「夢でも見たんじゃないの」

 私は言った。
 黒神由貴が私の顔を見つめているのに気づいた。
 黒神由貴は、何か痛ましいものを見るような目で私を見つめていた。
 私は無理して笑いを浮かべ、そして言った。

「なんくるないさー」


SPECIAL THANKS

上木様 「ユタ」「ノロ」についての御教示、
ありがとうございました

七味様 沖縄の情報、ありがとうございました

侮ログ 管理人/近添真琴様
「侮ログ」のフォーマットをお借りしました

WHAT`S NEW PUSSYCAT!? 管理人/瑠璃子様
「漫湖公園」の画像をお借りしました


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