単品怪談

樹怪







 もう四十年……いや五十年になりますか。あっしがまだガキの頃の話なんですがね。
 この町に腕のいい植木職人さんがいましてね。植木というか、庭木ですか。大きな木の手入れを得意にしていましてね。手入れだけじゃなくて、虫だの病気だので具合の悪くなった木を治す、今で言うところの「樹医」とか「樹木医」というやつですな。
 とにかく、「木のことなら、あのおやっさん」と、みんな言っていました。職人気質で気むずかしいが、腕は確かだと。
 そのおやっさんが、ある日、この神社にある銀杏の「治療」を請け負いまして。
 ご神木ではなかったはずですが、昔からある木なので、できれば生かしてやりたいという、神主さんからの依頼だったとかで。
 おやっさんも気合いを入れまして、根っこあたりの土に肥料を埋めたり、悪い枝をはらったり、あれこれしたそうです。
 そんなおりに、おやっさんの娘さんが、まあよりにもよって、その銀杏の木で首をくくっちまいましてね。
 ええ。亡くなりました。
 いえ、原因はわかりません。原因不明かどうかも、あっしは知りません。なにしろガキでしたからね。事情はわかりません。
 おやっさんのショックは、想像するにあまりありますな。半狂乱になったそうです。
 で、娘さんの四十九日が過ぎた頃、娘さんと同じように、銀杏の木で首をくくってしまいました。
 おやっさんが亡くなって間もなく、その銀杏も枯れてしまいました。いえ、これは不思議な話でもなんでもなくて、首をくくる前に、除草剤とか枯れ葉剤とか、そんなたぐいを銀杏の根元にしこたまぶちこんでいたんだそうで。おやっさんにしてみれば、銀杏が娘さんの仇のように思えたんじゃねぇですか。
 ほら。あそこに大きな切り株がありやしょう? あれが、その銀杏の切り株ですよ。







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