単品怪談

怪を語れば


 えー本日はお寒い中、「怖い話を語ろう会」へようこそいらっしゃいました。わたくし、ご案内を勤めます、西表山猫介と申します。

 さて、わたくし最近気づいたんですが、近頃、やけに怪談会が多いような気がするのです。
 大は何百人と収容できる大きなホールから、小は町の集会所での集まり。あるいは、ネット上で開催される、ネットラジオと言うんですか、ああいうのまで。
 一方、怪談を語る方々も、実戦バリバリの怪談作家さんやネットで活躍中のセミプロの方、お笑い芸人さん、果てはアイドルまで、多種多様です。
 みなさん話芸もお達者でして、わたくし舌を巻きました。

 ここでわたくし、ふと思ったのです。
 わたくし先ほど、近頃やけに怪談会が多いような気がすると申しました。また、「怪を語ると怪に至る」と言われるのも、みなさんすでにご存じだと思います。
 はたして妖しという存在は、わたくしどもが怪を語るのをじっと待っているものなのでしょうか。怪が語られるのをずっと待っていて、怪が語られましたらば、「それっ」とばかりに現れるものなのでしょうか。
 わたくしはどうも、そうではないように思うのです。
 全国各地で開催されている怪談会、あれはもしかして、知らず知らずのうちにわたくしどもが妖しに操られて開催しているのではありますまいか。
 わたくしどもは、妖しがこの世に出る手助けをしているのではありますまいか。

 ……などと、昨今の怪談隆盛を見るにつけ、そんな妄想を抱いてしまうのです。
 ──さて、そろそろ準備が整ったようです。本日まずご登場いただくのは、ネット上のホラー漫画が大評判の……



 ぼくはキーボードを叩く手を休めた。
 来週、ぼくが案内役となって、怪談会が行われる。そのオープニング前口上としては、そこそこいい出来ではないだろうか。
 「怪を語れば怪に至る」という、怪談好きならたいてい知っている言葉から、妖したちの企みにつなげるあたり、いい線を突いていると思う。
 実際のところ、妖したちがそういうことを企んでいるとして、それを知られることに対していい顔をするかどうかはともかく。



 ……おや、誰か来たようだ。


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