黒神由貴シリーズ

彼女の死に関する2、3のことがら 3


「神代先生。昨日はお疲れでした」

 樋口真奈美の家に訪問した翌日、愛徳女子高校の職員室。
 パソコンを操作していた中年の男性教師が、声をかけてきた。

「いえいえ。──なんです? インターネットですか? エッチな画像でも?」

「勘弁してくださいよー。いくらなんでも、ここでそんなもの見れませんよー。
えらく奇妙な事故──いや事件かなこりゃ──がありましてね」

 男性教師が見ていたのは、新聞社のサイトだった。

「都内の、わりとここから近いところで、男子高校生が部屋の中で死んでいたらしいんですけどね。
その死亡状況が奇妙というかなんというか……
──死亡原因が全身打撲だって書いてあるんですけどね。

ほら、見てくださいよ。脳挫創に内臓破裂ですよ。ねえ。
どうやったら、部屋の中でこんな死に方が出来るんですかねえ。
状態を見る限り、まるで高いところから落っこちたような死に方ですよ、これ。
それともうひとつ。頭頂部の髪の毛がむしり取られているらしいんですよ。

どういうことなんでしょうね? そんなことしてなんの意味があるんでしょうね?
──ね、奇妙でしょう?」

 神代は一瞬、目を細めた。が、すぐその後に言った。

「やめてくださいよー。なんだか気味が悪いじゃないですか」

 男性教師もあまりこの話題で引っ張るのはまずいと思ったのか、話題を変えた。

「そう言えば先生。勤務は今日まででしたよね。なんか残念ですよ。
──送別会、おことわりになったんですって?」

「どうも、そういう席は苦手でして。ごあいさつも済ませましたし。申しわけありません」

 神代は頭を下げた。

「生徒たちも残念がりますよ。神代先生は人気があったから」

 その言葉には直接答えず、神代はもう1度頭を下げて職員室を出た。



 神代冴子──密教の法具「独鈷杵」を持ち歩く女性教師は、樋口真奈美が想いを遂げたことを確信した。
 樋口真奈美の強烈な怨念は、その手に握られていた髪の毛を一目見ただけでわかった。
 したがって、ごく簡単な呪法だけで充分であった。
 神代冴子はほんの手助けをしたにすぎない。

 さて、次だ……
 神代冴子は、次に臨時教師として赴任する女子高校のことを思った。

 神代冴子はそこで黒神由貴と会うことになる。
 そのことを、神代冴子も黒神由貴も知るよしもなかった。






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