単品怪談

鑑識課職員の話


 あのー、実は僕、ミステリーとかサスペンス小説が好きなんですよ。
 こういう仕事をしているのを知ってる人がそれを知ると、「なるほどねー」と言われたり、逆に「仕事で十分でしょ」と言われたり、まあいろいろです。
 で、サスペンス系よりも好きなのが、バイオレンスアクションなんですよ。
 それを言うと、さらに「なんでまた」なんて言われるんで、滅多に人には言わないんですけどね。

 はいそうですね、西村寿行なんて、大好きです。
 あ。ご存じですかね、西村寿行が差別表現で抗議受けたの。
 小説で、登場人物が大量殺戮現場を見て「屠殺場のようだ」って言うんです。
 でまあ、とある団体から抗議が。
 「屠殺場は、そういう場所ではない」と。
 死体がごろごろ転がっているわけではないのだから、大量殺戮現場を「屠殺場」と表現するのは不適当だ、というわけなんですね。
 正確には「屠畜場」と言うんだそうです。
 え? 「とある団体」ですか?
 ええ、お察しの通り、屠畜関係ですから、あっち方面の同盟ですね。
 実際には、「屠畜」って、ごくシステマチックに作業されるそうです。
 死にかかった牛が断末魔の叫び声を上げていたり、あっちこっちに牛の生首が転がっているというわけではない。
 ですから、この抗議は至極もっともだと思います。

 ……以上が前置きです。
 すみません、話が長くて。
 一応、今の話をふまえていただいた方が理解しやすいものですから。



 ちょっと前に、大事件があったでしょう。
 ええ、そうです。
 「平和の光教団」事件。
 強制捜査が入る直前に、教祖や教団員全員が集団自殺した、あれです。
 ええ、ある意味いさぎよいと言えば言えましたね。
 昔、サリンをばらまいたカルト集団に比べれば。はい。
 あれの鑑識、僕も行ったんですよ。
 もちろん、あれだけの事件ですからね、1斑だけではとても手が回りません。
 他の県警からもだいぶ応援を要請しましたね。
 で、それぞれ分担して鑑識作業したわけです。
 僕らの班が担当したのは、食料部門でしてね。
 「平和の光教団」は極めて閉鎖的な集団でしたから、食料などの調達をどうしていたのかという調査も必要だったわけです。

 でも、そういう調査で我々鑑識班が出向くのって、妙だと思いませんか?
 実は、当初は刑事さんたちが調査に入ったんですよ。
 ところが、速攻で我々の出番だということになりまして。
 なんで? と思いました。
 行ってみて、なんとなく察しは付きましたね。
 食料部門の建物って、けっこう大きなプレハブだったんですが、そこから出てくる刑事さんの顔色が、例外なく悪かったんですね。
 ははーん、何か見つかったな、と。

 で……中に何があったかですけど……
 あの、「平和の光教団」のスローガンと言うか、キャッチコピーと言うか、ご存じですか。

「友の血を我が身の中へ。友の肉を我が身の中へ」

 って言うんですけどね。
 ええ。
 僕も何かの「比喩」だと思っていたんですよ。
 いや、まさか言葉の通りだったとは思いませんでした。
 そりゃ、中に入った刑事さんの顔色が悪かったはずです。
 いくら修羅場に慣れている刑事さんでも、きれいに解体処理された人体なんて、そうそう見てはいないと思いますから。
 え? そりゃもちろんですよ。
 僕だって、そんなのを見るのは初めてでした。
 さすがに血の気が引きましたよ。
 だって、通常のバラバラ殺人とは、わけが違いますもん。
 さっきも言いましたけど、その建物は「食料部門」の建物だったんですからね。
 そうですね……大きな肉屋の作業場って感じでしたよ。
 プレハブ内にあった巨大な冷蔵庫の中には、体毛を処理されて半身に切り分けられたものや、各部位に分けられたもの、内臓……それらが、整然と並べられていました。

 あ、大丈夫ですか。リアルに言い過ぎました?

 結局、過酷な修行で死んだ教団員や処罰された教団員などが、食肉になっていたわけです。
 入団したまま行方不明になった人たちは、たぶんそういう人たちだと思います。……まあこれは今後の捜査で判明するとは思いますが。

 はい?
 ああ、その気味悪い施設のことと、さっきの西村寿行の話が、どう関係しているのかって?
 いえ、直接は関係ないです。
 ただ、鑑識作業をしながら、ふと思ったんですよ。


ここなら、「屠殺場のようだ」と表現しても、どこからも抗議は受けないだろうなって……


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