単品怪談

気味の悪い実話2題


1.「むし」

 昭和61年9月、関東地方の農村地帯に住む会社員N氏(48)は、ある日右腰と太ももに痛みを感じ、針灸(しんきゅう)治療などを受けたが、病状は悪化するばかりで、ついには腰が腫れ上がって動けなくなった。
 昭和62年5月、N氏は日本でも10本の指に入る一流病院に入院した。
 病院のエックス線検査で肺に影が見つかり、同年9月、呼吸困難でN氏は死亡した。
 同病院は当初炎症かガンの疑いを持っていたが、病状の急激な悪化に疑問を持ち、病理解剖を行ったところ、体内のあらゆる筋肉組織に体長1~3ミリの白っぽい半透明の

むし

 が、びっしりと付着していた。
 標本を分析し、この寄生虫は「芽殖孤虫(がしょくこちゅう)」とわかった。
 芽殖孤虫は、通常は蛇やミジンコなどに寄生していると見られているが、人間の体内に入ると、植物が次々と芽を出すように急速に増殖し、内臓や筋肉を喰い荒らす、恐ろしい寄生虫である。
 致死率は100パーセント。
 腰などの「しこり」は、この寄生虫の固まり(コロニー)だったのである。

(GIMA注)
 私が見た新聞記事は、ごく小さな囲み記事であったが、死因の気味悪さと、「芽殖孤虫」という、まるで夢枕獏の小説に出てくるようなおどろおどろしい名前が強烈に印象に残った。
 ビビリまくっている人のために言うと、この寄生虫で死亡した人は史上12例、日本ではこのN氏を含めて6例だけである。


2.ワンボックスカーのサンルーフ

 ある主婦が、自分の子供とその同級生数人を連れ、ドライブに出かけた。
 車はワンボックスカー。
 子供たちはまとめて後部席に乗せ、騒ぐにまかせる。
 どうせ静かにしろと言って聞くはずもない。
 ワンボックスカーには、サンルーフが付いている。
 子供たちは車の中で立ち上がり、交代でサンルーフから顔を出して景色を眺めていた。

 車が、とある立体交差に近づいた。
 今、主婦の車が走っている方は、トンネル状になっている。
 地形の関係で、車の車高制限があり、トラックなどは通過できない。
 主婦にとっては、いつも通っている慣れた道であった。
 このワンボックスカーは、ぎりぎりで通過できるのがわかっている。
 立体交差を通過してしばらくしてから、主婦は子供たちがやけに騒いでいるのに気づいた。
 それが、尋常の騒ぎ方ではない。
 主婦は路肩に車を停め、後部席を振り返った。

子供の一人が、血まみれになって倒れていた。

 主婦はすぐに病院に連れて行ったが、子供はすでに死亡していた。
 その子供は、車が立体交差を通過するとき、サンルーフから顔を出していた子供だった。
 後ろの風景を見ていたため、立体交差に気づかなかったのだ。
 立体交差の天井と車の屋根との距離は十数センチしかなかった。
 子供の後頭部は、立体交差の天井のコンクリートに削り取られ、ほとんど残っていなかった。

 死んだ子供は、主婦の子供ではなかった。
 それが良かったのか悪かったのかは──不明である。


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