単品怪談

公園の砂場


 公園であった。
 どこの町内にもあるような、なんの変哲もない公園であった。
 ブランコ。シーソー。すべり台。ジャングルジム。そして砂場。
 天気のいい日は近在の若いママが子供を連れてきて、自由に遊ばせる。自分たちは他のママたちとうわさ話に花を咲かせる。
 たまに子供たちがブランコやジャングルジムから転げ落ちたりすることもあるが、おおむね、何ごともなく日々が過ぎてゆく。
 絵に描いたような平和な公園の風景だ。

 その日、公園に一匹の犬が連れられてきていた。小さなポメラニアンだった。
 この公園でも、原則としてペット禁止となっているが、ペットを飼っている家庭が多いこともあって、実質的には黙認されていた。
 ポメラニアンは、子供と一緒に砂場で遊んでいた。子供が盛り上げた砂山にじゃれついては砂山を崩すということを繰り返していた。
 ──突然、子供たちが騒ぎはじめた。
 すわ事故か怪我かとママたちは色めき立ったが、子供たちの誰一人、どこも怪我をしていない。
 よくよく尋ねると、ワンちゃんがいなくなったという。
 一緒に遊んでいたポメラニアンが消えたというのだ。なるほど、確かにポメラニアンの姿が見当たらない。リードを付けていなかったから、逃げたのだろうか?
 子供たちは口々に、砂の中からお化けが出てきて、ワンちゃんをさらっていった、と訴えた。タコみたいなお化けだった、と子供の一人は言った。
 念のため、砂場の砂を取り払い、何かいないかどうか確認された。
 砂場の底の部分には何やらぬらぬらとした粘液が溜まっているだけで、それ以外に何も見つからなかった。


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