宮本京子の言ったとおり、校内は大騒ぎになって、全校一斉強制下校となった。
2年B組の生徒や教師ばかりが連続して死んでいるところへ、今度は原因不明の焼死である。
学園サイドがうろたえるのも無理はない。
私──黒神由貴と宮本京子は、帰り道にあるファーストフードの店に入った。
さすがに、お互い食欲はない。
飲み物だけを注文し、人の少ないエリアに座った。
「さて……と」
宮本京子が口を開いた。
「なんか、ばれちゃってるみたいね。あたしがあいつらを殺したってことが」
意外にも、彼女は私が訊こうと思っていたことを、あっさりと認めた。
もっと面倒なやりとりになるかと思っていたのだが。
「あの人形を使って……何かしたわけ?」
「そう。呪いというか……魔術でね。どうしてわかった?」
「人形が変わるたびに人が死んだし……1度、背広の人形もあったから」
「驚いた。……ずいぶん前からあたしのことを見てたのねえ」
あきれたような顔で、宮本京子は言った。
「ねえ、どうしてあんなことができるようになったの?」
「あたしにもよくわからないけど……魔術の本とか見て、いろいろ勉強したの。
そしたら、できるようになっちゃった♪」
「恨みでもあったわけ?」
「……最初はね。暗いだのなんだの、好き勝手なこと言ってたから。
でも、最近は……そうね、面白くなってきちゃって」
「……殺すことが?」
「そう」
平然と、宮本京子はうなずいた。
「……でも、実はあたしも知ってたのよ。黒神さんが、あたしのことを見てるのを。
だからね、こんなのを作っちゃった」
言いながら、彼女はカバンの中から、何かを取り出した。
……法王学園の制服を着た人形だった。なんとなく、私に似ているような気がする。
「この人形の首、引きちぎったら、どうなると思う?」
「そんなことをしたら……私がそうなったら、大騒ぎになるわ。それでもいいの?」
「ただの女子高校生に、人間の首を引きちぎることなんて、できるわけないじゃない。
……悲鳴を上げていれば、それで済むわ」
「魔術で人を殺すのが……そんなに楽しい?」
「すっごく楽しいわ。……だから、あなたにごちゃごちゃ言われるの、うっとおしいの」
宮本京子は、人形の首を、無造作にちぎり取った。
宮本京子がなぜ呪殺法を身につけることができたのかは不明だ。
本人に才能があったのか、あるいはなんらかの「血」だったのか。
いずれにしても、無自覚な呪法の行使を放置することは危険であった。
そこで私──黒神由貴が派遣されることになった。
結果はネガティブ。
彼女を救うすべはない、というのが私の結論だった。
宮本京子は「殺す」ことに快感を覚えている。
呪殺というのは、実は100パーセント確実な殺害方法ではない。
呪いを受ける側の「力」が術者よりも強い場合、呪いの力は術者へはねかえる。
独学の宮本京子が、それを知るはずもなかった。
人形の首をちぎる瞬間、彼女は殺人の快感に酔っていたに違いない。
血を噴き上げている、首のない宮本京子の前で、私は途切れることなく悲鳴を上げていた。
宮本京子自身が言ったとおり、ここは悲鳴を上げていれば、それで済む。
法王女子学園のほうは、私がいた記憶を生徒たちから消せばいい。
人間の持つ暗黒面──どす黒い欲がある限り、私はまたどこかへ行かねばならない。
うんざりする役目で、しかもいつ終わるとも知れないのだ。