黒神由貴シリーズ

魔女の人形 (後編)


 宮本京子の言ったとおり、校内は大騒ぎになって、全校一斉強制下校となった。
 2年B組の生徒や教師ばかりが連続して死んでいるところへ、今度は原因不明の焼死である。
 学園サイドがうろたえるのも無理はない。

 私──黒神由貴と宮本京子は、帰り道にあるファーストフードの店に入った。
 さすがに、お互い食欲はない。
 飲み物だけを注文し、人の少ないエリアに座った。

「さて……と」

 宮本京子が口を開いた。

「なんか、ばれちゃってるみたいね。あたしがあいつらを殺したってことが」

 意外にも、彼女は私が訊こうと思っていたことを、あっさりと認めた。
 もっと面倒なやりとりになるかと思っていたのだが。

「あの人形を使って……何かしたわけ?」

「そう。呪いというか……魔術でね。どうしてわかった?」

「人形が変わるたびに人が死んだし……1度、背広の人形もあったから」

「驚いた。……ずいぶん前からあたしのことを見てたのねえ」

 あきれたような顔で、宮本京子は言った。

「ねえ、どうしてあんなことができるようになったの?」

「あたしにもよくわからないけど……魔術の本とか見て、いろいろ勉強したの。
そしたら、できるようになっちゃった♪」

「恨みでもあったわけ?」

「……最初はね。暗いだのなんだの、好き勝手なこと言ってたから。
でも、最近は……そうね、面白くなってきちゃって」

「……殺すことが?」

「そう」

 平然と、宮本京子はうなずいた。

「……でも、実はあたしも知ってたのよ。黒神さんが、あたしのことを見てるのを。
だからね、こんなのを作っちゃった」

 言いながら、彼女はカバンの中から、何かを取り出した。
 ……法王学園の制服を着た人形だった。なんとなく、私に似ているような気がする。

「この人形の首、引きちぎったら、どうなると思う?」

「そんなことをしたら……私がそうなったら、大騒ぎになるわ。それでもいいの?」

「ただの女子高校生に、人間の首を引きちぎることなんて、できるわけないじゃない。
……悲鳴を上げていれば、それで済むわ」

「魔術で人を殺すのが……そんなに楽しい?」

「すっごく楽しいわ。……だから、あなたにごちゃごちゃ言われるの、うっとおしいの」

 宮本京子は、人形の首を、無造作にちぎり取った。



 宮本京子がなぜ呪殺法を身につけることができたのかは不明だ。
 本人に才能があったのか、あるいはなんらかの「血」だったのか。
 いずれにしても、無自覚な呪法の行使を放置することは危険であった。
 そこで私──黒神由貴が派遣されることになった。
 結果はネガティブ。
 彼女を救うすべはない、というのが私の結論だった。
 宮本京子は「殺す」ことに快感を覚えている。

 呪殺というのは、実は100パーセント確実な殺害方法ではない。
 呪いを受ける側の「力」が術者よりも強い場合、呪いの力は術者へはねかえる。
 独学の宮本京子が、それを知るはずもなかった。
 人形の首をちぎる瞬間、彼女は殺人の快感に酔っていたに違いない。



 血を噴き上げている、首のない宮本京子の前で、私は途切れることなく悲鳴を上げていた。
 宮本京子自身が言ったとおり、ここは悲鳴を上げていれば、それで済む。
 法王女子学園のほうは、私がいた記憶を生徒たちから消せばいい。

 人間の持つ暗黒面──どす黒い欲がある限り、私はまたどこかへ行かねばならない。
 うんざりする役目で、しかもいつ終わるとも知れないのだ。


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