黒神由貴シリーズ

番外編5.真理子パソコン事情







 日曜のお昼。両親は出かけていて、家には私と兄貴の二人。でまあ、なんとなく私が昼食を作ることになって、面倒なので冷蔵庫にあったレトルト・カレーでカレーライスにした。トッピングは何もなし。
 兄貴と向かい合わせでしばらくはもぐもぐとカレーを食べていたが、ふと思い出したことがあって、私は兄貴に言った。

「おにい。今日、クラスの子が新しいノーパソ買ったって言うんで、使わせてもらったんだけどさ。すっごく遅かったんだ。新発売モデルなのに。OSが新しいから? 正直に言えなくて、どうしようかと思った」

 興味を持ったのか、兄貴がスプーンを持つ手を止めて、言った。

「どこのパソコン?」

 私は国内大手のメーカー名を口にした。型番はよく覚えていないので、ノートパソコンのシリーズ名だけ。
 兄貴は首をかしげた。

「そのモデルだったら、そこそこのスペックだし、それなりの処理速度のはずだけどなあ。買ったばかりだったら、ソフト同士が喧嘩して遅くなってるってこともないだろうし。──てか、遅いって、そもそも何と比べてだ?」

 私は上を指差しながら言った。

「あたしが家で使ってるノート。おにいが譲ってくれたやつ。比較にならないぐらいだった」

 それでわかったという顔で、兄貴は大きくうなずいた。

「あー、そりゃそうだろ。お前のは特別製だから」

「あの、おにいのお古が?」

「中古には違いないけどな、あれ、研究室で改造しまくってハイエンドなみのスペックにしてんだ。並のノートパソコンじゃ動作速度は勝てない」

「あー。それであんなに熱いんだな? バッテリーで動作させたらすぐになくなるし」

「お前どうせ部屋の中でしか使わないだろ。熱対策もしてあるから、暴走することはないはずだ。安心して使うんだな。言っとくけどな、あれと同等のスペックにしようと思ったら、ウン十万はかかるんだぞ。それと、素肌むき出しでひざとか腿の上に乗せて使ったら、低温やけどするかもしれないから、そこんとこ注意な」

「そうなんだー。……そう言えば、くろかみが使ってるパソコンは、けっこういいやつっぽいよ。ノートじゃなくてデスクトップだけど」

 私が言うと、兄貴はうなずいて言った。

「知ってる。こないだ聞いた。メーカーの既製品じゃなくて、ショップブランドで別注で組んでもらったって。現在のパーツで考え得る限りの最高スペックだった。正直、うらやましいわ、俺」

「へー、そうなんだー。って、ちょい待ち、そんなこといつくろかみから聞いたのよ。あたしの知らない間に。またあたしの目を盗んでデートしたのかよ。くろかみからそんなこと聞いてないし!」

 私が言うと、兄貴は「やべっ」という顔をした。

「まあそれに関しては、明日くろかみをきっちりシメとくから。おにいのほうは、そうだな、なんかおごって」

「わかった。駅前のパーラー『蘭』のスペシャル・パフェで手を打とう」

「乗った」

 交渉は成立した。善は急げ。私は部屋着を着替えるため、2階の自室に向かった。
 ドアを開け、ふと、正面の窓を見て、私は叫び声を上げた。

「うわわっ!」

「どしたっ!」

 すぐに兄貴が駆け上がってきて、部屋に入ってきた。私が呆然として窓の外を見つめているのを見て、声をかける。

「どうした? のぞき魔でもいたか」

 私は首を横に振った。

「人間じゃなくて、カラス。真っ黒なカラスがベランダの手すりに止まって、こっち見てた。あたしが声出したら、飛んでっちゃったけど」

「なんだカラスかあ。そんなのどこにでもいるじゃん」

 あきれたような声で、兄貴は言った。

「じゃ早く着替えて降りて来いよー。『蘭』だったら車でなくても歩きでいいよな?」

 そう言うと、兄貴は1階へ降りていった。
 私はと言うと、内心で微妙に首をかしげていた。

 今のカラス。どこか変だったような気がする。
 どこが。
 大きさは、たぶん普通のカラスと同じかちょっと大きいぐらい。
 色も普通のカラスと同じ。真っ黒。
 窓の外に止まっていて、私と目があっても平気で。兄貴が部屋に入ってくる直前に飛んでいって。

 あれ? と、私はそのカラスに対して感じていた違和感に気づき、気づいた瞬間、全力で否定していた。
 だってそんなことってあり得ないから。
 そんなカラスなんて、いるわけないから。

 足が三本あるカラスなんて。


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