見える人って、けっこういますよ。ええ。そうですね、たとえば……
まず、薬物依存症の方。わかりやすく言えば、覚醒剤中毒などの麻薬や、アルコール依存ですね。
いずれの場合も、症状がすすむと、幻覚や幻聴があらわれます。
よくあるのは、「虫」などの小さな物。
布団の上に「虫」がびっしりいると言って、手ですくって捨てる動作を繰り返したりします。
あとは、小さな大名行列や兵隊が行進したりするとか。
幻聴ですと、「あいつが自分の悪口を言っている」、とかね。
いや、これはどちらかと言うと、「妄想」ですかね……
幻聴や妄想と言えば、分裂症に代表されるような、精神疾患ですね。
ほら、よくいますよね。
「神様が電波で命令した」「守護霊が頭の後ろで言った」なんてね。
「見える」場合でもね、見えているのは自分だけなわけで、それを幻覚と思わず、「特殊能力」とか「霊感」なんて思ってしまうわけですね。
思春期の女性に多く見受ける傾向にあります。
あなたは、最近、どうですか?
あまり見ないようになった? ああ、薬がよく効いているようですね。
もう少し服用を続けてもらって、様子を見ましょうか。
大丈夫ですよ。一時的なものです。
ご心配なく。誰もあなたを「おかしい」なんて思っていませんよ。
ではまた来週、おいでください。
……先生が精神科の人だというのは、私、知っているのよ。「心理カウンセラー」なんて言ってるけど。
くれている薬が「向精神薬」だというのもね。飲んでないけど。
だけど、私だって学習能力ぐらいあるの。
「見えるもの」をそのまま馬鹿正直に言っていたら、「危ない人」だと思われるぐらい、わかるわ。
「霊」が見えるとか、「霊の声」が聞けるとか、もう言うつもりはないわ。
よかれと思って、「憑いている」人に警告したりしたけど、逆にここへ行けって言われちゃったし。
その人、この間、死んじゃったけどね。だから忠告したのに。
だからね、もういいの。
人がどうなろうと知ったことじゃない。私は霊媒でもエクソシストでもないの。
……ただね、先生。
さっきからずっと、先生のまわりに人がいるの。5人ぐらいかな。もっとかな。
その人たち、先生の首を絞めたり、目に手を突っ込んだりしているの。
先生、さっきから、目をパチパチしてるよね。時々、咳き込んだりしてるよね。
もしかして、患者さんにずいぶん悪いことしてるんじゃないの?
ずいぶん恨まれてるんじゃないの?
先生の話し方からすると、あまり神経の細やかな人とは思えないしね。
御大事にね。来週来たとき、また会えるかしら?