単品怪談

三柱鳥居幻想


 阪急電鉄京都線/大宮駅で下車し、道路をはさんだ向かいにある嵐電(らんでん──チンチン電車)に乗って数駅、蚕ノ社(かいこのやしろ)という駅で降りて少し歩くと、木島神社にたどり着く。
 鳥居の前にコンビニがあるような、住宅街の中のこぢんまりした神社だ。
 静か、と言えば聞こえはいいが、参拝に訪れるのは、近在の老人か物好きな観光客ぐらいだ。
 そして、物好きな観光客の目当ては、この神社本殿の西側にある「三柱鳥居(みはしらとりい)」なのである。
 三柱鳥居の奇妙さは、一目見ればわかる。
 3組の鳥居を組み合わせて、ちょうど三角柱のような形状になっている。
 そしてその中央にできた空間に石を積み、それに御幣が突き立てられている。
 この奇妙な構造は、一説には四方向から参拝するためとも言われるそうだが、しかし、それはおかしい。
 普通、鳥居というのは聖域への「通路」「入り口」であり、そのものを拝むわけではない。
 第一、木島神社の三柱鳥居は池の中にあり、三方向に参道が延びているわけではない。唯一伸びている方向にも池の水が満ちていて、参拝を拒んでいるとしか思えない。
 そもそも──池の中の参道を歩いて鳥居をくぐったとして、どこへ参拝に行くというのだろうか?
 さらに想像を広げるならば、この鳥居は、どこか異界へ通じる通路なのではないのか? 異界へ行くためか、あるいは、異界からなにものかを召喚するための装置なのではないか。






 四条大宮には、新撰組の屯所跡地や新撰組隊士たちの墓地などもあり、幕末には多くの血が流れたことだろう。
 勤王の志士が幕府を倒す決定打として、あるいは逆に佐幕派が最後の手段として、禁断の法を用いて邪神を呼ぶことを思いついたら。
 あるいは、先の大戦において、京都にまで空襲攻撃がおよび、政府が敵国への報復手段として邪神を用いることを思いついていたら──歴史はどうなっていただろうか?
 もちろん、史実として現在まで、この木島神社において、そのような忌まわしい行為が行われた事実はない。
 だが三柱鳥居を前にすると、実際にそのようなことがあったとしても不思議ではないような気がしてくる。

 物好きな観光客の一人──つまり私──のそんな思いを知ってか知らずか、三柱鳥居は深い木々の中、静かにたたずんでいる。


Tweet

単品怪談