「こないだ、山形の天童市に行ってきまして」
「そりゃまた、どういう用件で?」
「ご存じですかね。ムカサリ絵馬を見に行ったんすよ」
「ほう。確か、冥婚がらみの絵馬だったよね?」
「さすがにお詳しい。その通りっす。青森なんかでは人形を奉納しますけど、天童市では夫婦の絵を描いて奉納するんですよね。前々から興味があったんで、思い切って、休みを取って」
「物好きだねえ。ちょっと見たことはあるけど、薄気味悪いよね」
「そうですねえ。だいたい絵馬を奉納するのは死んだ人の親ですから、なんというか、鬼気迫る物がありまして、見てるとちょっと背筋に走るものがありますね」
「気持ちは痛いほどわかるんだけどね」
「そう言えば、ひとつだけ、妙なムカサリ絵馬を見ました」
「妙って?」
「ムカサリ絵馬って、結婚相手がいないまま死んだ人を哀れんで奉納するものですから、その相手は、まあ言ってみれば単なる『絵』じゃないですか」
「だよね」
「だから、普通のムカサリ絵馬は、片方にだけ、名前や住所、享年なんかが書いてあるわけなんですけどね」
「その、妙なムカサリ絵馬は違った、と……」
「ええ。男女どちらにも、名前と住所が書いてありました。女性の方にだけ享年が書いてありましたね」
「二人一緒に亡くなったのかね」
「だったら、男性の方にも享年を記入するっしょ? いえね、もしかしたら、男性の方はまだ生きているんじゃないかなって」
「薄気味悪いこと言うんじゃないよ。……で、その辺の事情、調べたの」
「1泊じゃ無理っすよ。時間をかければ何かわかったかも知れませんけどね。男性の方も死んでたら、しかもムカサリ絵馬を奉納してから死んでたら、それこそ洒落にならんでしょ」
「ある意味、呪いだよね。写真とかは撮ってきたの?」
「普通のムカサリ絵馬はね。そのムカサリ絵馬は、だめでした。どうにも……怖くって」