単品怪談

ムカサリの地獄


 最近、陽が落ちてから、自分の部屋の中央にたたずむ娘の姿を見る。
 娘は一年前に交通事故で死んでいる。
 十八歳だった。
 先月、山形出身の夫が「娘のためにムカサリ絵馬を奉納したい」と言い出し、専門の絵師にムカサリ絵馬を発注した。
 夫とは再婚である。娘は私の連れ子で、再婚した当時、十二歳であった。
 多感な年頃だ。夫とうまくやってくれるだろうかと心配であったが、拍子抜けするほど、娘は夫になついた。夫も実の子のように娘を可愛がった。
 そう思っていた。
 部屋にたたずむ娘が勉強机を見つめているのに気づき、何か気になることがあるのかと調べてみると、引き出しを抜いた奥に、小冊子を見つけた。
 娘の、秘めた日記であった。
 夫と娘は、男と女の関係であった。
 それを知った私は思わず失笑した。仲がよかったのも道理であった。
 日記には、男の味を覚えた小娘の、恥を知らない文章が連綿と綴られていた。
 娘と夫の関係は、娘が中学2年の頃から始まっていた。不慮の事故で死ぬことがなければ、まだまだ続いていただろう。
 深夜。
 夫はすでに寝ている。
 私は居間にいる。
 かたわらにはできあがってきたムカサリ絵馬がある。
 居間の片隅に立って、娘がこちらを見ている。
 わかっている。望みを叶えてやろう。
 気が済むまで、そちらの世界でまぐわい続けるがいい。
 私はムカサリ絵馬の花婿側に夫の名を書き込み、肉切り包丁を握って立ち上がった。







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