単品怪談

七不思議の井戸


第3回「大阪てのひら怪談」優秀賞受賞作


 ここ一年ほど、暇を見つけては、否、無理矢理にでも暇を作って、神社仏閣に参拝している。
 目的は縁切りだ。
 胸をえぐられるような嫌な記憶と、その元となった人物の記憶一切、自分の頭の中から消えて、精神的に完全に縁切りできるようにと祈願している。
 今日訪れたのは四天王寺だった。
 大黒堂、六時礼讃堂、亀井不動尊、太子殿、阿弥陀堂と回り、そのいずれでも、線香を焚き、精神的縁切りを願った。
 阿弥陀堂に参って極楽門から出ようとしたところで、何かの御縁日でもあるのか、中心伽藍が入場無料なのに気づき、ではついでにと、中心伽藍にも入ることにした。
 中心伽藍の講堂や金堂でも、参拝して願うことは変わりない。一年前の記憶と、不快な手の感触が消えることを願う。










 入ってきた西重門のそばに、「龍の井戸」と呼ばれる井戸屋形が建っている。
 ここは「四天王寺七不思議」の一つで、井戸の底をのぞき込むと龍の姿が見えるという言い伝えがあり、事実、龍が見える。
 実は他愛もない仕掛けで、井戸の真上、屋形の天井に龍の絵が描かれていて、それが井戸の水に映るのだ。
 ばかばかしいとは思いつつも、のぞき込んで、井戸の底を見下ろす。







 女の顔があった。
 この一年、どこでどう祈願しても頭の中から消えることのなかった女の顔が。
 両手の指がうずき、首を絞めた時の不快な感触がよみがえった。
 井戸の底の女が笑った。

「やっと見つけた」

 その声は、井戸をのぞき込む頭の後ろ、屋形の天井から聞こえた。



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