単品怪談

夏祭りコンチキチン


コン、コン、コンチキチン……

祭ばやしが流れている。






 やぐらから降りたら、一緒に夏祭りに来ていた連れが消えていた。
 やぐらの上で酔ってはしゃいだので、あきれてどっかに行ったのだろうか。
 薄情な連中だ。
 夏祭りじゃないか。
 踊りの輪の中、やぐらの上で踊って、何が悪い。

 踊りの輪はすでに崩れ、踊っていた群衆は次の踊りの打ち合わせのためか、一ヶ所に集まっていた。
 まあ、もう次は踊るつもりはない。
 酔ってはしゃぎすぎたせいか、首筋が少々痛む。
 俺は踊りの広場から離れた。

「よお、久しぶり」

 いきなり声をかけられた。
 見ると、高校時代の同級生、鎌田と佐伯の二人だった。
 かれこれ10年ぶりになるだろうか。
 二人とも、高校の頃の面影はなかったが、不思議に、すぐに誰かわかった。

「おおー。お前らも来てたのかー」

「いやあ、やぐらの上で踊ってるのは見てたんだがな。
降りてきたんで、声をかけられるようになってな」

「首、どうかしたのか」

 俺が首筋を押さえているのに気づいたのだろう、佐伯が言った。

「はっは。やぐらではしゃぎすぎたみたいでな。筋を違えたみたいだ」

 そこまでしゃべって、俺はふと思い出した。

「そう言えばお前ら、卒業してから、このあたりでブイブイ言わしてたよな。
……ちょっと前に、事故ったって耳にしたような気がすっけど、
ありゃガセだったのか?」

「いやいや」
「いやいや」

 鎌田と佐伯、二人そろって、否定した。

「マジマジ」
「そのせいで、このありさまだ」

 佐伯の言葉で、俺は改めて二人の姿を見た。
 ……なぜ今まで気づかなかったんだろう。

 鎌田は、全身黒こげだった。
 髪の毛は全くなく、炭化した皮膚がウロコのように顔を覆っていた。
 口を開くと、その中は真っ赤で、真っ黒な顔面とのコントラストが不気味だった。

 一方の佐伯は、頭が砕けていた。
 よく「ザクロのように」などと表現されるが、ぱっくりと口を開いた中に脳みそが見えている様子は、まさにザクロだった。
 血と脳漿が、顔面に流れていた。

「事故ったとき、フロントから飛び出してなー。
側壁に頭をぶつけてよ。こんなざまになっちまった」

 笑いながら佐伯が言った。笑うと、口からだらだらと大量の血が流れる。

「俺はシートベルトしてたんだけどな」

 こちらも笑いながら、鎌田が言う。
 鎌田が笑うと、炭化した皮膚が「フケ」のようにパラパラと落ちた。

「車が火ぃ噴いてな。そのまま燃えっちまった」

「お、お前ら……」

 俺は口ごもりながら、言った。

「ひょっとして、死んでるのか?」

「おいおい」
「おいおい」

 炭化した皮膚を落としながら、だらだらと血を流しながら、二人は笑った。

「お前だって、そうだろが」

「その、首を押さえてる手をはなして見ろよ」

 佐伯に言われ、俺は手をはなしてみた。
 かくん、と頭が真横に倒れた。

「あ、あれ……?」

「お前、やぐらから落ちたんだよ」

 佐伯が言った。

「べろべろに酔ってたからな、頭からまっすぐに落ちたんだ」

 鎌田が言った。

「じゃ、さっきやぐらの近くで人が集まってたのは」

「おお。お前の死体を取り囲んでいたんだよ」

「大騒ぎになってたぜ。『早く救急車を呼べ』ってな。……お、来た来た」

 救急車のサイレンが聞こえてきた。

「んで、俺たちが迎えに来たってわけだ」

「ちょうど初盆で、ここに帰ってきてたんでな。……じゃ、行くか」

 サイレンに混じって、祭ばやしも、まだ流れている。

コン、コン、コンチキチン……






本作は以下のリンク先で朗読が聴けます
https://www.youtube.com/watch?v=-sTx0K-UfUg
朗読:ビストロ怪談倶楽部様

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