黒神由貴シリーズ

番外編7. 新たな車







 授業が終わり、例によって黒神由貴と連れ立って校門に向かっていたとき、教職員専用駐車場に見慣れない車が停められているのに気づいた。
 いやいや、いくらなんでもすべての先生たちの自家用車を把握しているわけではないが、その車は外車──BMWだった。
 
 誰のだろう?

 疑問に忠実に、私はその車に近づいた。
 私のあとを、黒神由貴がついてくる。どうしたのかと思っているだろうけど、とくに何を言うでもない。
 真っ赤な4ドアBMW、型番に4が付いているから4シリーズと言うんだろう。
 誰の車かわかる手がかりはないかと、ガラス越しに運転席をのぞき込んでいたら、コツンと頭を叩かれた。

「なにすんの、くろかみ」

 と振り返ったら、困り顔をした黒神由貴の横に、神代先生が立っていた。

「車上荒らし発見」

 そう言って神代先生がニヤリと笑った。
 いえあのその、と私があせりまくる。

「先生のですか?」

 と、黒神由貴が言い、神代先生がうなずいた。

「S2000、生産終了してずいぶんになるし、けっこう走ったしで、そろそろ買い替えようかと思ってたんでね」

「今度のも2シーターのスポーツカーだと思ってたんですが」

 黒神由貴が訊く。

「これもどちらかと言うとスポーツタイプだし、それと」

 そこまで言って、神代先生は言葉を切った。
 神代先生が何を言おうとしているのかわからなくて、私たちは次の言葉を待った。

「S2000は二人乗りだから、あんたたちと行動する必要があるとき、不便だし」

 もじもじと、神代先生が言う。

「でまあ、次の車は4ドアのセダンが便利かなって、思ってさ」

 あ、と私は思った。たぶん、黒神由貴も同じことを思ったはずだ。


 
神代先生、デレた。


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