単品怪談

大阪嫌い






 西へ行った子と東へ行った子が会うのにちょうどいいからって、なんで集合場所が大阪かなあ。仕方ないから行くけどさあ。
 駅の改札を出るなり、ソースの下品な臭いが鼻をつくし、あっちでもこっちでも「でんがなまんがな」「でんがなまんがな」って、さんまやダウンタウンじゃあるまいし。
 さっきはいきなり、豹だか虎だかがデカデカとプリントされたブラウスを着た、見も知らぬオバサンが「姉ちゃん大阪来んの初めてか。アメちゃん食べるか」って。
 だいたいあたし、大阪って、苦手というか、嫌いなのよ。下品じゃん。道を歩くのでも、なに? 競歩でもしてるの?
 繁華街のど真ん中にタコ焼きの屋台がいくつもあって、あんたたち「粉もん」がなかったら死ぬの? 死ぬんでしょうね。
 ちょっと目線を上げたら、バカみたいに大きなカニが動いてるし。なんなのそれ。アミューズメントパークのつもり? くいだおれ人形だかなんだか知らないけど、ピエロの格好で眼鏡かけて、なんで太鼓叩いてるの? バカなの?
 待ち合わせ場所はここのはずなのに、誰もいないじゃん。携帯もつながんないし。
 あたしの周りにいる老若男女、みーんな大声でくだらないギャグばかり言ってるし。
 あーもういや。早く帰りたい。

「姉ちゃん」

 肩を叩かれて、あたしは振り返る。虎柄ブラウスのオバサンがいた。

「あんた、大阪が好きやないみたいやな」

 オバサンはあたしを上目遣いで見ながら、ねっちりとした口調で言った。

「しやけどな、あんたもう、ここから出られへんで」

 あたしは大勢の大阪人に取り囲まれているのに気づいた。周りから聞こえてくる下品な大阪弁がさらに大きくなって、あたしの耳に突き刺さってくる。


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