単品怪談

オレがいる


 道を歩いていたら、とんでもないやつに出会った。
 誰だと思う。
 ……オレだ。
 このオレと全く同じ服装/姿形をしたやつが、道の向こうから歩いてきたのだ。
 オレも驚いたが、むこうも驚いたらしい。
 ギョッとした顔をして、回れ右をして走っていった。
 ……こんな話を聞いたことがある。
 自分と全く同じ姿をしたやつを見ると、間もなく死ぬ、というのだ。
 オレが死ぬってのか? 冗談じゃないぞ。
 とにかく、ぶらついている場合ではないな。家に戻ろう。
 玄関を開けたとき、いやな気分になった。
 玄関に脱ぎ捨てられた靴に、見覚えがある。
 オレは自分の足元を見た。……同じ靴だった。
 どたどたと足音が聞こえ、オレは顔を上げた。
 そいつと、至近距離で、向かい合う形になった。

「うわああああああああああっ!」

 叫び声を上げて、オレは家を飛び出した。



 ……どこをどう走り、動いたか、もはや記憶にはない。
 とにかく、やつと逢わないことだけを考え、安ホテルを泊まり歩いた。
 はっと気づくと、いつしか家の近くに来ていた。
 あまりいい気持ちではなかったが、家の様子を確認することにした。
 おい、ちょっと待て、なんだあれは。
 なんで葬式をやっているんだ。誰が死んだ!
 思わず、走り出していた。
 参列客がオレを見て何かわめいたが、耳に入らなかった。

祭壇の。

写真は。

オレだった。

 参列客の、恐怖に引きつった視線を浴びながら、オレは納得していた。
 化け物は、やつじゃなくて……そうか、だから、やつが死んだのか。
 とすると、もうオレは存在する必要はないわけだな。


消えるとしよう。


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