父親はもうずいぶん前に逝ってしまったが、その父親が話してくれた体験談。
昭和30年代ぐらいか……
現代のようにコンビニもなく、メインストリートを外れたらまともに街灯もない時代。
裏通りには街灯もなく、あっても電信柱の高い所に、ぽつんと裸電球があるだけの、
……そんな時代。
ある深夜、仕事帰りか飲んだ帰りか、とにかく親父は家に向かっていた。
前述の通り、裏通りは薄暗い。
そんな道を歩いていた親父は、前方に不審な物を見た。
電信柱の根元、数個の大きなゴミ袋の陰、頼りない明かりに浮かぶもの……
生首。
眼を閉じた中年男の生首が、
横向きになって転がっている。
生首とわかった瞬間、血の気が引いた。
だが、生首の横を通らなければ、家に戻れない。
親父は道の反対側により、できる限り生首から距離を取って通り過ぎようとした。
なるべく、生首を見ないように。
だが、どうしても眼は生首の方を見てしまう。
生首の真横を通り……
そこで気づいた。
生首ではない。
浮浪者が黒っぽいコート(あるいは薄い毛布)にくるまって、寝ているのだ。
あたりが暗いために胴体部分が見えず、
頭部だけ がボウッと浮かび上がって見えたのだった。
安堵感で腰が抜けそうになったと言う。
「ややこしい寝方するなっちゅうねん」
親父は言った。
確かにそうだろう。
いきなり、道に転がっている生首を見たのだ。
ものすごい恐怖であったろうと思う。