単品怪談

雪おんな~お雪巳之吉~







 拙サイトの「ささいな恐怖」を読まれるような読者諸兄諸姉におかれましては、いまさら「雪おんな」のストーリーをご紹介する必要もなかろうかと存じます。
 要するに、吹雪の山でああなってこうなって、見目麗しき嫁を取り、話は一気にクライマックスシーンでございます。
 とある吹雪の夜、巳之吉が何気なく十数年前のあの吹雪の夜の出来事をお雪に話したとたん、お雪は顔色を変えて立ち上がり、

「それはあたし、お雪じゃ。あのとき、あたしは、もしぬしがそのことをひと言でももらしたら殺す、と言うた! そこに眠っている子供がおらなんだら、すぐに今、ぬしを殺したところじゃ!」

 そう言うお雪の姿は、白い着物に白髪の、まさしくあの夜の真っ白な女でありました。恐ろしくも美しいお雪の姿を見つめながら、巳之吉は激しく後悔いたしました。
 そして巳之吉は、お雪に言いました。

「お雪。約束をたがえた以上、わしはどうされても仕方ない身じゃ。だから今生の別れに、一つだけ願いを聞いてはもらえんか」

「なんじゃ。言うてみよ」

「最後に、おめえを抱かせてくれろ」

 巳之吉の言葉が理解できかねたのか、お雪はしばらく「ぽかん」としておりましたが、やがて顔を熟れ柿のように真っ赤にして、叫びました。

「……あ、あに、バカなこと言ってるだ! そったらことできるわけ」

 お雪──雪おんながうろたえている間にも、巳之吉は手早く着物を脱いで寝床に入り、手招きいたしました。

「こっちゃこ」

 意を決したように着物を脱ぎ捨てた雪おんなが寝床に入ってくると、巳之吉はほほから首筋へと優しく指を走らせました。
 雪おんなが思わず漏らした吐息は、その名とは裏腹に、この上もなく熱かったそうでございます。


(都条例に配慮し、以下五十八行略)






 翌朝、何やらトントンという音が聞こえた気がして、巳之吉は目覚めました。
 ああ、もうお雪はいねえんだなあ。今までは毎朝、うめえ朝飯を作ってくれて、「早く起きねえとまんまが冷めちまうで」なんて言われて起きたもんだがなあ。

「あんた。早く起きねえとまんまが冷めちまうがね」

 懐かしい声に巳之吉が思わず飛び起きると、朝の支度をしているお雪の、いつもと変わらぬ後ろ姿がありました。
 ただ、たった一つ、うっかりしたのか開き直ったのかは定かではございませんが、お雪の髪の毛は、その後もずっと、白いままであったということでございます。
 どっとはらい。


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