こんなことってないかな。
ほら、たとえば駅まで行く途中、ふと見ると、お店が並んでいる間がぽかんと空いていて、更地になってるの。
不景気で店をたたんだのか、建物が古くなって取り壊したのか、事情はいろいろあるんだろうけど、とりあえず、更地を見ていつも悩むことがひとつ。
──ここって、更地になる前は、なんだったっけ?
すぐに思い出せる人、いる?
あたし、思い出せたためしがないな。
更地の隣にある家やお店に訊けばいいんだろうけど、わざわざそんなこと訊けないし。
とまあ、そんなつまらないことを考えていても、お腹は空く。
近くにある馴染みのコンビニにお昼を買いに、一人住まいのアパートを出た。
「え?」
あたしは思わず声を上げた。
あたしの部屋の真正面、狭い私道を挟んだお向かいが、更地になっていた。
あそこ、なんだったっけか。
思い出せない。
何かは建っていた。でも今、目の前に見えるのは、砂利が少し混じった地面だ。
「なんか、自分がボケちゃったんじゃないかって。ついこの間まで何かが建っていたのはわかっているのに、それがなんだったのか、思い出せないの」
ミニ親子丼とペットボトルのお茶をレジに出し、あたしは店長にぼやく。
「あるあるある」
店長は商品をコンビニ袋に入れながら、しきりにうなずいた。
「思い出せないんだよねー、あれって」
「よかった。あたしだけじゃなかったんだ」
店長と二人、声を上げて笑う。
「ありがとー」
礼を言って、コンビニを出て、あたしは絶句する。
コンビニの前が更地になっていた。
ぽつんと、ではない。
見渡す限り──何かのたとえじゃなくて、右を見ても左を見ても、見渡す限りただの地面が広がっている。駅も道路も建物も、本当に何もなくなっている。
「ちょっと店長、外が変!」
言いながら振り返って、あたしは立ちすくむ。
コンビニがなくなっている。
あたしの目の前には、何もない更地だけが果てしなく広がっている。
今、買い物したのに。コンビニ袋も、手に提げてるのに。
どういうこと? あたし、どうかなっちゃったの? いったい、何がどうなっ