「ささいな恐怖」では、基本的に私が書いた話を載せています。
中には実話や、人から聞いた話が元になった物もありますが、人から投稿された話は載せていません。
理由……というほどでもないのですが、投稿体験談には、
「変なものを見ました。とっても怖かったです」
というような、幼稚園の作文並みの話も少なくないからです。
心霊現象や怪奇現象に対する知識がお粗末であることも、載せる気がしない理由の一つでしょう。
正直なところ、心霊体験サイトに投稿されている話は、文章的にも怪奇談的にも、話にならないほどレベルが低い。
(いみじくも「話にならない」と表現しましたが、まさしく話になっていないのです)
単なるうわさ話を信じ込んでいるもの。
都市伝説を実話と思いこんでいるもの。
とはいえ、そういう怪奇体験談を読むのは決して嫌いではないし、ネット上で知り合いになった中にも、怪奇体験談を載せているサイトオーナーが何人かいます。
それはそれでサイトオーナーの考えなのだから、私が口出しすることではありません。
そんな心霊体験サイトの一つ、サイトタイトルはここには記しませんが、たまにメールをやりとりしたりして、比較的親しくしているサイトがあります。
他の心霊体験サイトと同様、自身が体験したことと、投稿された体験談を載せています。
開設間もない頃から閲覧していましたが、当初は上記にもあるような、他愛もない体験談ばかりが投稿されていました。
それが、いつからだったでしょうか、かなり「怖い」話が多くなってきました。
ぞっとするというか……冗談抜きで怖くなるというか……
要するに、「はずれ」の話がなくなってきたのです。
心霊体験サイトとして人気が出てきたのか、そのサイトはかなりのペースで更新し、更新のたびに新たな体験談が投稿され、しかもそのすべてが、とんでもなく怖い話なのでした。
私も、「ささいな恐怖」の参考になるかと思い、かなりの頻度で閲覧していました。
……ふと、私は最近の投稿体験談に、「ある傾向」があることに気づきました。
ここでその「ある傾向」について語る前に、ちょっと横道にそれて。
「新耳袋」という本をご存知でしょうか。
怪談実話本として、けっこう有名なもので、先頃、最終第10巻が刊行されました。
幽霊、妖怪、不可解な話などなど、さまざまな話が載っていますが、著者はあとがきの中で、こう註釈しています。
“禁じ手”を設け封印している話が数多くある。
この約束事の“禁じ手”とは、呪い、祟り、因果のみで語られる内容の話を収録しないことである。
つまり「新耳袋」の著者は、上記のような話を「かなりヤバイ」と判断し、掲載していないのです。
さて、そこで「ある傾向」ですが、まさに「新耳袋」で封印している話なのでした。
男女間のもつれから相手を呪って自殺した女性の話、
自宅を造成するために敷地内にあった社(やしろ)をつぶし、一家が全滅した話、
一族の中に、必ず「まともではない子供」が生まれる話、
(肉体的にか精神的にか、いずれにしても、さすがにここには書けない)
などなど。
読んでいて、「いくらなんでもこの話はヤバイだろう(いろんな意味で)」という話が増えてきて、ついには、更新されて追加されるのは、そういう「ヤバイ」話ばかりになってしまいました。
その頃に、さすがにちょっとまずいんじゃないのと思い、メールを送りました。
ただ、生々しい怖さではあっても、インターネットの規約に触れるような、いわゆる「公序良俗」に反するものではないため、「載せない方がいいんじゃないの」と、ソフトに言うしかありません。
私自身、ヤバイとは思うものの、どうヤバイのか説明しようがなかったのです。
メールを送った数日後、返信のメールが届きました。
幸い、サイトオーナーは私のメールに対して気を悪くするでもなく、更新される話についての事情を語ってくれました。
彼いわく、実は自分も気づいてはいたが、投稿体験談が充実するのはありがたかったし、とにかく、最近投稿される話は、すべてこうなのだ、ということでした。
そして、こうも書かれていました。
「投稿してくれた方には、いつもお礼のメールを送るようにしているのですが、最近投稿されたものは、どれも“USER UNKNOWN”で返ってきてしまうんですよ」
そして最後に、
「実は最近体調が思わしくなくて、更新が少し遅れるかも知れません。
のんびりとやっていきますので、温かく見守ってやってください。(笑 」
……気になります。
気味悪い投稿が、すべてUSER UNKNOWNであること、サイトオーナーが体調を崩しているらしいこと。
なんだかなあ……と思いつつ、その後もその心霊体験サイトを見ていました。
更新が月に1度程度になって、3編ほど投稿が載った頃だったでしょうか。
メールが届きました。
差出人は、心霊体験サイトオーナーのお兄さんでした。
「**(サイトオーナーの本名)のサイトにいつもご訪問いただき、ありがとうございます。
さて、突然ではありますが、*月**日未明、**が亡くなりました。
生前中にひとかたならぬご厚情をいただきましたこと、厚く御礼申し上げます。
時節柄一層の御自愛の程、お念じ申し上げます」
一連の出来事と彼の死が関係あるかもと考えるのは、あまりに短絡的かも知れません。
でも、あっさりと「偶然だ」と切って捨てるには、ちょっと気味が悪いのです。
念のために言えば、彼は心霊スポットを探検したりしていましたが、そこを荒らしたり、何かを持って帰ったりということは、何もしていないはずです。
(彼自身は迷信深いタチだったので、そういう行為は絶対のタブーでした)
ですから、何かから「祟られる」ということもないはずなのですが。
だとすると、あの差出人不明の投稿はなんだったのでしょう。
……わかりません。
サイトオーナーが亡くなったので、いずれサイトもなくなると思いますが、今のところはまだアクセスできるようです。
例の「呪い、祟り、因果」だけの投稿体験談群も、まだ残っています。
それらももちろん閲覧できますが……あまりお勧めはいたしません。
どうしても読んでみたいという方は、私までご一報を。