単品怪談

ホラー小説サイト


 読んでいただければおわかりの通り、「ささいな恐怖」は創作ホラーストーリー集です。
(「実話」と註釈している物を除く)
 ネット上には、創作ストーリーを載せているサイトも数多くあります。
 当然、ホラー専門のサイトも星の数ほどあって、相互リンクこそしていないものの、お互いちょくちょく訪問しているサイトもいくつかあります。

 サイトオーナーたちとの間で、メールや掲示板でよく話題にのぼるのが、いい素材がなかなかないということ。
 創作の「ネタ」は各自が努力すべきことなので、これはぼやいても仕方がない。
 ここで言う「素材」というのは、ページの背景やイラスト/写真素材のことです。
 ご存知の方も多いでしょうけど、ホームページ作成に使える素材は、サイト上で多くの方が自作のホームページ素材を無料提供されています。
 ただ、残念なことに、それらのほとんどは可愛い物やきれいな物が多く、ホラーの素材に使える物は、ほとんどと言っていいぐらい、ありません。

 ホラー素材と言えば忘れてはならないのが、
 「GHOST TAIL」さん、「暗黒工房」さんの両サイト。
 ここの素材にお世話になっているホラー系サイトは、かなりの数のはず。
 とは言うものの、やはり限界があるのも確かなことで、話のイメージにあったカットや壁紙は、なかなか見つかりません。
 自分で作ればいいのでしょうが、こればかりはむずかしくて、どうもね。

 ……とまあ、いきなりグチばかり書いてしまいましたが、世の中、私のような不精な人間ばかりではありません。
 交流のあるサイトオーナーの中には、自分で素材を作っている人もいます。
 実際に会ったことはないのですが、メールのやりとりだけではなく、たまには電話でも話します。
 仮にK君としておきましょうか。

K君「……で、あいかわらず素材には苦労してんの?」

GIMA「まーね。壁紙なんか、適当に黒バックでごまかしたりしてね」

K君「うちは、こないだ、いい素材の素材を見つけてきたで」

GIMA「素材の素材って、何」

K君「人形ネタで何か書きたくてさあ。淡島神社に行って来てん」

GIMA「淡島って、和歌山の加太の?」





淡島神社本殿





本殿を取り囲む人形

 淡島神社というのは、人形を供養することで有名な神社です。
 神社の境内や社殿の周辺にあらゆる人形が並べられ、初めて見たときは、いささか気味が悪い印象があります。

K君「そそ。泊まりでね」

GIMA「淡島神社だったら、泊まりで行くほどでもないやん。小さめの神社だし」

K君「ネタ集めで写真を撮るだけだったら日帰りでいいんやけどな♪」

GIMA「あ? つまりネタ集めだけじゃなかったってこと?」

K君「んにゃ、ネタ集めはネタ集め。写真だけじゃないってことやね」

GIMA「どういうことさ」

K君「夜中に神社に行ってさ、市松人形を1つパチって(かっぱらって)きた」

GIMA「おいおいおいおい! そりゃいかんだろ! っつーか、ヤバイだろ!」

K君「大丈夫だって。普通に境内に置いてあるヤツやから。
GIMAだって知ってるやろ。
あそこはさ、本当にヤバイ人形は地下の隠し部屋に保管しとんねん。
それをパチってくるほどの度胸はないけどな」

GIMA「……で、その人形を写真に撮るわけ?」

K君「ちょうど今やってたんだやけどね。
ただ写真撮るだけやったら面白くないから、頭を半分に割って、あとはペイントソフトで、適当に血のりを描いて」

GIMA「うう」

K君「素材が完成したら披露するからさ、楽しみに待っててな」

GIMA「いらねーよ! っと、怖いもの知らずっつーか、ばちあたりなヤツだなあ」

 ……とまあ、そんなやりとりがあったのが、かれこれ数ヶ月前のことでした。

 画像処理ソフトの扱いが得意な人なら、素材となる人形の写真があれば、首が取れた画像だろうが頭が割れた画像だろうが自由自在なのでしょうが、K君はほとんど画像ソフトを使いこなすことが出来ませんでした。
 出来ることといえば、せいぜい色を塗るとか線を引くとか、そんなもの。
 そもそも写真を加工できるスキルがあるなら、人形をかっぱらってくることもないはずでしょうし。
 したがって、実際に人形を損壊した物を写真に撮り、それをベースにして画像を作るというのは、K君にすればもっともやりやすい方法だったわけです。



 K君のサイトに新作が発表されたのは、電話のやりとりの1ヶ月ぐらい後でした。

 電話でも言っていたように話は人形怪談で、こう言ってはなんですが、ストーリーそのものはありきたりなものでした。

 しかしカットとして使用されている、例の人形の写真……
 これもまた、K君が電話で言っていた通り、実際に頭部が割られ、リアルな色合いで血のりが描かれていました。
 淡島神社から盗んできた物であるという先入観を差し引いても、見ているだけで充分に気味悪く、おぞましささえ感じられました。

 そのおぞましさは、……どうやら私の思い過ごしではなかったようです。



 電話で話すこともあるわけですから、K君の本名は当然知っています。
 ですから、その日新聞の社会面でK君の本名を目にしたときは、ビックリしました。
 サイトが更新された1ヶ月後ぐらいでしたから、今から1ヶ月ほど前のことです。



「会社員、自室で不審死」
27日午前8時ごろ、**市**町の****さん(32)が自室で死んでいるのを、家人が発見し、警察に通報した。
**さんはパソコンデスクの前に座った状態で、頭部に大きな傷を負っており、これが致命傷と見られているが、**さんの周辺に傷の原因となる物が見当たらないため、**県警では事故と他殺の両面から、死因も含め引き続き調べを進めている模様。



 頭部に大きな傷……新聞ではそれだけしかわかりませんが、私はなんとなく……そう、なんとなくですが、頭が半分近く欠損した状態だったのではないだろうか……と思いました。
 例の、淡島神社から盗んできた人形はどうなっただろう……
 これもまた「なんとなく」なのですが、もう彼の部屋のどこにも見当たらないのではないだろうか。
 そんな風に思いました。

 その後、新聞に続報は載りませんでした。
 不審ではあるものの、確かに他殺とするだけの物証がなかったのでしょう。






K君のサイトは閉鎖されました。







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