単品怪談

今日、地下鉄の駅で (実話)







 休日の午後、大阪市営地下鉄日本橋駅、千日前線ホームで、電車の到着を待っていた。
 次駅での乗り換えの関係で、ホーム最後尾で待つ。
 ホームの端には鉄製の柵が立っていて、それ以上先には行けないようになっている。
 やがて電車の到着を知らせるアナウンスが流れ、トンネルの暗い奥からこちらに向けて、風が吹いてきた。
 すぐに電車の前照灯が見えてきて、ホームに電車が滑り込んできた。

「ん?」

 電車の先に、風船が浮かんでいた。
 ゴム風船ではなく、大福餅のような楕円球状の風船だ。
 ほら、スーパーとか家電量販店などで、販促品として配っているヤツ。
 それが、電車を先導するかのように電車の1メートルぐらい先に浮かんで、ホームに入ってきた。

「なんで……こんな物が」

 もう1度言うが、私はホームの端に立っていた。
 その先には、風船を持つような子供どころか、誰もいない。

 風船はそのまま電車の先頭方向に飛んでいき、私は目の前のドアが開いたので、車両に乗り込んだ。

 それだけの話。


単品怪談