単品怪談

月の夜、あなたに逢いに







 外に出るのにもたついてしまった。
 辺りを見回すと、見覚えのある場所だった。あの人の家の近くにある公園だ。
 まん丸なお月様が出ている。
 出かけるのがすっかり遅くなってしまったが、早くあの人に逢いに行こう。約束していないのにいきなり逢いに行ったら、あの人は怒るだろうか。
 というか、昔からあの人は怒りっぽかったな。最後に逢ったときも、いろいろひどいことを言われて、ぶたれたりした。
 それからこの公園に連れてこられて……それから、どうしたんだっけ?
 ゆっくりと歩き出す。
 なんだか身体がだるい。
 ずっと寝ていたせいだろうか。
 服のあちらこちらに、土が付いている。こんな格好で歩いていたら、おかしな女だと思われてしまう。今が夜でよかった。
 ああ。髪の毛にも土が付いてる。
 あたしは髪を指ですいた。
 すいた指の違和感に、あたしは自分の掌を見つめた。
 指に大量の髪の毛がまとわりついていた。
 顔がかゆい。
 ほっぺに手を当てる。ずぶずぶと、なんの抵抗もなく指がほっぺの中に潜り込んだ。
 びっくりして、あわてて指に付いた肉片を払ったら、指の肉も一緒にちぎれ落ちた。
 あたし、どうしたんだろう。
 そう言えば、どうしてあたし、公園にいたんだろう。
 あの人のアパートが見えてきた。
 2階にあるあの人の部屋への階段を、ゆっくりと上がる。
 ドアをノックする。
 ドアが開き、あの人が顔をのぞかせる。
 あたしの顔を見て、あの人が絶叫する。

「こんばんは」

 あたしは言った。




本作は、以下のリンク先で朗読が聴けます

https://www.youtube.com/watch?v=1at0Lz9VU8I
朗読:あげまきよりか様

https://www.youtube.com/watch?v=JtgXZO1TKn4
朗読:ビストロ怪談倶楽部様

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