単品怪談

陳さん美食を語る







 ああ、どうもどうも、あなたがナカミチさん?
 周さんのご紹介で。
 はじめまして、陳です。
 なんですか、あまり大きな声では言えないような食材のことを聞きたいとか?
 ははあ。
 あなたも物好きな方ですなあ。
 いろいろ「つて」をたどって、私のところへ?
 あはははははは。
 大変だったでしょう。
 周さんからのご紹介ということですから、「ヘビ」だの「虫」だのではないということですな。
 しかしあなた、それを聞いてどうなさるので?
 何かの記事にするとか? もしそうだったら、あなた、非常にまずいことになりますが。
 違う?
 信じてよろしいか?
 わかりました。お話ししましょう。

 まず、食材としての「あれ」は、とりたててどうと言うことはございませんな。
 肉は肉です。
 年齢や性別によって、多少くせが残っていたりしますが、香辛料を効かせれば問題ないです。
 処理や調理法も、特別なものはないです。
 お話でよくあるような、「一度食べたら忘れられない味」ということもないですな。
 食材が何かわかっていれば、最初は抵抗があるかも知れませんが、わからないで食べれば、変わった風味の肉だぐらいにしか思いませんです。
 私も何度か食べましたが、そう何度も食べたいとは思わないですな。ニホンのマツサカウシのステーキの方が、はるかに美味しい。

 ただ、あれは……




 おっと失礼。
 あれを思い出したら、よだれが出てきました。お恥ずかしい。
 「あれ」ってなんだ? ですか?
 はっはっは。
 いや、今までお話ししていた食材と同じですよ。
 ただ、材料と調理法が少々違います。食材の入手方法の難しさと、調理の手間。これがあるものですから、普通の「あれ」以上に口に入ることがむずかしいのですよ。
 私も、かなり前に一度食べただけです。
 あれだけは、せめてもう一度食べたいですなあ。
 聞かせてくれ?
 はっはっは。
 あわてなさらず。お話ししますよ。
 ただ、その食材のことを話しても、その味をわかっていただけるかどうか……

 ニホン料理の調理法で「塩釜」というのはご存じですか。
 そうです。
 魚や肉などの食材を、塩で包んで焼き上げるという。
 私の国でも鶏を泥で包んで焼き上げる「乞食鶏」という調理法がありますが、同じ効果を狙ったものでしょうな。
 味を逃がさないようにして、じっくりと熱を加える。
 よく考えられていますな。あれは美味しいものです。
 召し上がったことはありますか。
 ある。だったら話は早い。

 それから、ソフトシェル・クラブというのはご存じですか。
 脱皮したばかりの蟹のことで、殻がまだ固くなっていないやつをそのまま調理するものです。
 聞いたことがある。すばらしい。
 では、バロットは? ホビロンとも言いますが。
 はっはっは、その顔を見ますと、ご存じのようですな。
 そうですそうです。孵化(ふか)する直前のアヒルの卵をゆでたものですな。
 初めて食べる方は驚かれるようですな。
 あれも、慣れれば美味しいものです。
 生まれる前なので、骨も柔らかい。
 ソフトシェル・クラブにしろバロットにしろ、未成熟なものの味わいと言いますか、ひと味違いますな。

 さて、それでは、私がもう一度食べたい「あれ」ですが。

GIMA注:以下、かなり残虐な描写が続きますので、了承される方のみ、引き続きお読み下さい


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