単品怪談

ドクロを背負う女


 大阪には「新地」と呼ばれる男性天国エリアがいくつかある。ある日の夕刻、サラリーマンの中島氏は大阪市内南部にあるT新地へやってきた。目的は言うまでもない。

「お兄ちゃん、寄ってってー」

 建ち並ぶ店からかかる呼び声を聞きながら、中島氏は適当な店に入店した。
 お遊びの料金を支払った中島氏が2階の個室で待っていると、赤い長襦袢姿の女性が入ってきた。こういう稼業には似つかわしくない、清楚な雰囲気の女性だった。
 彼女が無言で長襦袢をするりと脱ぐ。その際に身体が斜めを向き、彼女の背中にある彫り物がチラリと見えた。

「昔の男に彫らされまして」

 彼女がぽつりと言う。
 背中の絵柄はドクロだった。瞳も描かれていて、刺青を見る者をにらみつけているようにも見え、いささか気味が悪い。
 事情を聞くのもはばかられ、そのままなんとなく情事へと移行する。あえぎ声と荒い息だけが部屋に響いて、やがて事を終えた中島氏は、彼女を両の腕で抱きしめた。

「つっ」

 彼女の背に回した腕に痛みを感じ、中島氏は腕を外した。「あっ、大丈夫ですか」と狼狽した彼女が中島氏の腕を確認した。
 中島氏の手首に、歯形が付いていた。

「背中の骸骨が、たまに噛みつくんです」

 彼女は言った。

「嫉妬深い人で……。私が浮気していると思い込んで、相手を殺そうとして、逆に殺されてしまって。今でも、優しそうなお客さんが付くと、焼きもちを焼いて」

 信じがたい話だったが、確かにこれでは堅気の暮らしは難しいなと中島氏は思った。
 一週間後、中島氏は再び彼女を指名しようと店に行ったが、彼女はすでに退店して、行方知れずとなっていた。







引き続き幻丞色町退魔行Ⅱを読む


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